松山ケンイチ『虎に翼』“一気見レビュー”が大反響。誤字脱字があっても説得力が異様に高いワケ
登場人物に軽くツッコむことも
また、『虎に翼』はネガティブな意見が少なく、絶賛の勢いが批判を凌駕(りょうが)していたが、松山ケンイチは時々、軽くツッコんでいる。たとえば第93回の感想。 「ユミー!親の事はいいから自分の気持ち優先しろや!わがまま言ってくれるから親は切り替えられるんだよ!子供が子供の主張しないといつまでも親はかえって戻ってくるの時間かかっちゃうから!親のケツに火つけろ!知らんけど。」(松山ケンイチ投稿より引用、以下同じ) 子育てに関する自論を語る松山ケンイチ。寅子と優未独自の母子の生き方もあってもいいが、別の意見もあっていい。松山の感想は、ドラマの主張と違うことを書くときの匙加減(さじかげん)もいい。もっともそれは出演者だからゆるされるところもあるだろう。しかももう終わったものだし。 そして、俳優ならではの視点も興味深い。
俳優としての松山が感想の端々に滲んで見えるよう
例えば、10月1日の鼻をほじる芝居の話。 「お兄さんの息子。自然に鼻ほじってんな。自然に鼻ほじる演技は、第一関節位入れがちだけど、彼は鼻の穴付近でサラリとほじっている。鼻をほじる記号としてではなく、本人の心から生まれる生理としての鼻ほじり。」 また、10月2日の轟役戸塚純貴への助言のようなもの。 「轟!支柱に顔が被ってるよ!カメラ位置ちゃんと確認して!表情見えないから。」 俳優としての松山ケンイチが感想の端々に滲(にじ)んで見えるようで、ひじょうに具体性に富んでいて面白いのである。
いい意味で異端だった松山ケンイチ
俳優としての松山ケンイチは、『虎に翼』のなかで、いい意味でなかなか異端であったように感じる。『虎に翼』は法律という硬い題材をライトなタッチで描いていた。さらに“朝ドラあるある”のひとつで登場人物たちは50代になっても老けメイクは控えめ。ところが桂場だけはどんどん老けていき、松山はたったひとりでリアリティーを出そうとしていた印象がある。 演技とは様式だけでも心だけでも足りず、しっかり作った形に心が見事にハマったときが最高の瞬間である。あるいは心に合わせて身体や動きが変化していくのでもいい。松山ケンイチの芝居はいつもそこに到達しているように感じる。 法律を愛し、ついには最高裁長官にのぼり詰めるが、司法を尊ぶあまり、ブルーパージ(編集部注:リベラルな自主的組織に加入していた裁判官らに対し、左遷など冷遇した一件。ドラマでは「勉強会」を行った若者たちを異動させた)を行うなど、やりすぎなこともある桂場は、寅子とは次第に法律家としての生き方の道がズレていく(最初から意気投合はしていない。桂場はややひねくれ者設定でもある)ので、寅子たちとは違うアプローチを行ったことで良き差異となった。 最高裁長官の芝居を、司法関連の取材を担当していたNHK解説委員の清永聡は「これまで最高裁長官を何人も見てきました。松山ケンイチさんの最高裁長官ぶりは、その中の一類型にとても近いと思いました。本当にああいう感じの人がいるんですよ(笑)」と高く評価していた(ヤフーニュースエキスパート『「虎に翼」最終週にてんこ盛り過ぎる問題をNHK解説委員に丁寧に解説してもらった』より)