トランプ大統領令でNASAの予算超過ロケット「SLS」が消える可能性
SLSの開発運用が中止される可能性は極めて高い
■マスクがSLSを中止する? SLSの予算超過をマスク氏が指摘し、トランプ氏が大統領令を発すれば、SLSの開発運用は中止されるが、その可能性は極めて高い。 マスク氏がDOGEの議長に着任すれば、NASAを含むあらゆる政府機関を監督することになる。その内容は不正の摘発、無駄な支出の抑制のほか、過剰な規制の撤廃や、公務員の人員整理に至る。マスク氏は、2025年度の連邦予算の歳出7兆2660億ドル(約1090兆円)のうち、約7%に当たる5000億ドル(約75兆円)以上の削減を目標にしており、この大幅削減を実現するには、かなりの大ナタを振う必要がある。 SLSがキャンセルされた場合、 その代替機としてはスペースXのスターシップなどが候補に挙がる。その場合、自社に利益をもたらすマスク氏の利益相反が問われるが、DOGEは政府機関ではなく諮問機関であるため、彼は名目上、その批判を回避できる。マスク氏がSLS中止を進言したとしても、大統領令を発するのはトランプ氏であり、それを世に伝えるのはNASA長官となるジャレッド・アイザックマン氏の役目だ。 SLSの機体に関する主契約者はボーイングであり、同社は主にコアブースター(第1段)を担当している。また、そのサイドに2基搭載される固体ロケットブースターはロッキード・マーティンが製造。両社の合資会社であるULA社もそれらの製造に関わっている。第1段に4基搭載されるRS-25 エンジンや、第2段エンジンの主契約者はエアロジェット ロケットダイン。また、スターシップに切り替わればオリオン宇宙船も不要になる可能性があるが、その製造は主にロッキード・マーティンとエアバスが請け負っている。 SLSが中止されれば、これら国策企業が大きな損失を計上するだけでなく、その事業に関わる数万人の雇用が失われる。さらには製造拠点を擁する地元議員などによって、米政府やマスク氏に対し、何らかの圧力が掛かるだろう。 ただし、中国が2030年の有人月面着陸を着々と進めるいま、月における覇権を維持する責務を負う米国としては、アルテミス計画をさらに効率的に進め、毎年延期されるその遅延を食い止める必要がある。
鈴木喜生