トランプ大統領令でNASAの予算超過ロケット「SLS」が消える可能性
SLSの問題は膨張する予算だけでなく、その開発製造が長期間にわたって継続する点にある
■1回の打ち上げは6300億円 SLSは、NASAが主導するアルテミス計画に使用される超大型ロケットであり、2022年にはじめて打ち上げられた。次回の打ち上げは2026年が予定され、アルテミス2計画においてクルー4名を月周回軌道に投入する。 ただし、2011年の開発スタート時からの総コスト(オリオンと地上施設含む)は、2023年時点で545億9900万ドル(約8兆1900億円)に昇り、当初予定の4倍以上に達している。そのためSLSの開発運用を停止し、他のロケットに切り替えるべきという声が多い。 SLSの1回の打ち上げコストは42億ドル(約6300億円)。一方、スターシップの場合は1回の打ち上げコストは1億ドル(約150億円)と試算される。これは1回の打ち上げコストにおいてSLSの42分の1、1トン当たりのコストは63分の1を意味する。 この差は主にNASAとの契約方式の違いから生まれる。SLSはNASAの事業であり、開発製造に掛かった費用は下請け業者からすべてNASAに請求され、その10%程度が手数料として支払われる。こうした契約形態をコストプラス契約という。 これに対してスターシップは、スペースXの独自開発によるものだ。NASAは同機をアルテミス計画の有人月着陸機に選定したため、その開発に一定の援助資金を提供しているが、基本的にはNASAはクルーを月面に送迎するサービスを、スペースXから購入する形(アンカーテナンシー)となる。その契約は固定価格契約であるため、NASAが支払う金額は一定であり、その開発過程で何が発生しようとその金額は変わらない。 SLSの問題は膨張する予算だけでなく、その開発製造が長期間にわたって継続する点にある。現時点でアルテミス計画は2032年のアルテミス7までスケジュールされているが、当初の予定ではその後も年に1度、有人月面着陸を行うという計画。そのためSLSのコアブースターの製造は現時点でアルテミス5まで着手され、部材調達や後続機に関する契約もアルテミス11まで交わされている。NASAはコスト圧縮の手段として、長期計画にもとづく一括契約を行っているが、エンジン改良の経費が追加されるなど、膨れ上がる総予算に批判が高まっている。