動かぬ証拠! 日本初、月面着陸のつめ跡
「報道部畑中デスクの独り言」(第357回) ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日本初の月面着陸に成功した月着陸実証機「SLIM」について― 【写真全6枚】小型ロボット「LEV-2」の同一機
「きょうは明るい話になりそう?」「期待してて下さい!」……東京・御茶ノ水のホール。記者会見を前に、関係者とかわしたやり取りです。 1月20日、月面着陸に成功した月着陸実証機「SLIM(スリム)」。当日開かれた記者会見では日本初の「快挙」にもかかわらず、関係者の表情はさえず、終始、重苦しい雰囲気でした。先の小欄でも詳しくお伝えしましたが、約5日半が経った25日午後2時、JAXA=宇宙航空研究開発機構は改めて記者会見を行い、その後の状況を説明しました。いい意味で予想を大きく裏切るものでした。 「小型月着陸実証機SLIMは、2024年1月20日0時20分に100m精度のピンポイント軟着陸に成功したことを確認しました」 口火を切った宇宙科学研究所の国中均所長はこのように報告しました。
着陸場所は目標地点から55m離れた場所であることも明らかになりました。ピンポイントの着陸精度そのものは、障害物回避の前の段階で概ね10m以下、後述の異常を加味すれば、実際の精度は3~4m程度だった可能性が高いということです。 約38万km離れた天体に向けて放った物体が、わずか3~4mの精度で着陸する……まさに驚異の数字だと思います。ピンポイント着陸の成否を判断するには当初1ヵ月ほどの時間が必要とされていましたが、この精度の高さが判断を早める結果になりました。 さらに着陸直前に放出された2つの小型ロボット「LEV-1(レブワン)」「LEV-2(レブツー、別名SORA-Q(ソラキュー)」も着陸。特に「LEV-2」はSLIMの撮影に成功、着地した機体をしかと捉えていました。着陸の“動かぬ証拠”です。
「腰が抜けそうになった」 運用責任者の坂井真一郎プロジェクトマネージャは、画像を見たときの衝撃をこのように表現していました。 一方、5日前の会見が重い空気になった理由である太陽電池の不具合、その原因も明らかになりました。着陸直前の高度50m付近で、2基あるメインエンジンのうちの1基に異常が発生。推力が半減して想定と異なる姿勢で着地、ひっくり返ったような状態になったということです。これにより、太陽電池が西を向き、当時、東側にあった太陽の光が当たらず、発電できない状況になりました。 ただ、太陽電池が地面を向いていれば、発電の望みは本当に絶たれます。西を向いたことで電力復活の望みはつながれたわけで、坂井プロマネは「あの姿勢になっているだろうと推測はついていたが、よくあの形でとどまってくれた」と胸をなでおろします。着陸直後の管制室の様子は混乱していたものの、万が一、電力が確認できなかった場合の対応もあらかじめ決めており、「そのときのメンバーの落ち着きぶりは感銘を受けた」と、メンバーを称えました。