にこにこしてても心の中は夫への悪口でいっぱい。「子どものため」離婚をやめて幸せになれるのか『離婚してもいいですか? 翔子の場合』【書評】
「離婚してもいいですか?」と聞かれたとき、夫の立場だったらなんと答えるだろう。愛情がなければ良いというのかもしれないし、子どもが成人するまでは拒否を示すのかもしれない。しかし、妻がこの言葉をいうときは、相当な覚悟と積もり積もった不満があるときだろう 【漫画】本編を読む
『離婚してもいいですか? 翔子の場合』(野原広子/KADOKAWA)は、夫が大嫌いになってしまった妻・翔子が離婚しようと奮闘する物語だ。翔子の夫・淳一は、妻が丹精込めて作った料理を採点してくるタイプのモラハラ男。一方、妻の翔子は夫と離婚したいと思っていてもそれを声に出していえない上、収入もなく自分だけでふたりの子どもを育てる自信もない。 本作を読めば、いつもニコニコしている妻が心の内では夫を「大嫌い」になった理由が手に取るように分かるようになる。きっと、夫が嫌いな妻が読むと共感でき、妻に嫌われる夫が読むと思わず心臓が痛くなるだろう。もし「自分と同じだ」と思うシーンがあるのなら、妻と夫それぞれの考えや行動を今後の参考にしてみてもらいたい。
働く夫に専業主婦の妻、娘と息子がひとりずつ。そんな一見すると幸せそうに見える家族は、妻の犠牲の上に成り立っていた。「夫の機嫌を損なわないよう」日々を送り、なんとか家族の形を維持している。翔子の心の中は淳一への悪口でいっぱいなのに、出産を機に専業主婦になったことがきっかけで夫にものをいえなくなっていた。
しかし、翔子の心に限界がきてしまい、心療内科にかかることになった。翔子が受診した病院での会話の中で最も印象的だったのは「自分自身で生きる力をつけてください」という医師の言葉だ。医師はストレスをなくすかストレスから逃げることができないのであれば、ひとりでストレスに立ち向かえる力をつけるべきだという。
もしも翔子と同じような環境で悩んでいる人がいれば、自分だけで自立して生きていける収入を得てほしいと思う。経済的な依存を解消することは、確実に自分の自信につながるだろう。翔子はこの通院をきっかけに自分を抑圧してきた原因である父との関係に気づき、ストレスと立ち向かう力を身につけていく。離婚という願いを現実にするために、自分の手で稼ごうとフルタイムのパートをはじめるのだ。