<レスリング>全日本で12度目のVを果たした吉田沙保里が抱えるもう一つの役割
2015年1月14日から3月8日にかけて、世界レスリング連盟は女子レスリング普及のためのキャンペーンを実施する。そのキャンペーンでは「スーパー8」と名づけられた8人の女子レスリングを代表するメンバーがアンバサダーをつとめる。その一人に吉田沙保里が選ばれたのだ。試合への準備があるなかで選ばれたため、まだ詳しいことは打ち合わせが終わってないと言いながら「スイスへ行ってきます」と歯切れ良く吉田は答えてくれた。 「スイスのオリンピック博物館へ行って、キャンペーンのスタートを宣言してきます。難しい英語は話せないので、いろんな人のお世話になると思いますが、一人でも多くの人に知ってもらって盛り上がるといいなと思っています」 「スーパー8」という名前を聞くと、映画のタイトルにもなったフィルムの規格のことがすぐ思い浮かぶかもしれないが、「8」というのは、国際女性デーの日付3月8日の「8」でもある。日本ではマイナーな国際女性デーだが、欧州、とくに旧ソ連では女性へ花を贈るなどするお祝いの日だとされている。その3月8日をキャンペーンの最終日に設定し、女子レスリングの普及に弾みをつけようというのだ。 吉田をはじめとした「スーパー8」のメンバーは、すべて女性だ。他のメンバーは南米コロンビアのレスリング連盟会長、レフェリー、米国から世界選手権メダリスト、カナダの五輪金メダリスト、スウェーデンの五輪銅メダリスト、アフリカの女子レスリング五輪選手、ロシアの五輪金メダリストという錚々たる面々が選ばれた。それぞれが、世界の女子レスリングの様々な側面を代表しているが、なかでも吉田はアジアの女子レスラー代表であり、女子レスリングが五輪種目となってからの歴史そのものを代表している。 にぎやかな場所で、知らない人と出会うのが好きだという吉田は、これまでも積極的に様々な分野の活動に取り組んできた。個人的に楽しんでもいただろうが、折に触れ、少しでも多くの人に女子レスリングを知ってもらうこと、新しく取り組む子どもが増えることも願ってきた。10年前なら練習と試合以外に取り組むことを理解できなかったかもしれない。しかし、自分に憧れてレスリングを始めた選手と対戦する経験を経て、練習と試合以外にも果たすべき役割を担う立場になった。 世界レスリング連盟の取組が、長期的にはどのようなものになるかまだ判然としない。しかし、この新たな「スーパー8」の挑戦が、吉田が後輩に伝えたい「精神的なこと」に加わるのは間違いなさそうだ。 (文責・横森綾/フリーライター)