<レスリング>全日本で12度目のVを果たした吉田沙保里が抱えるもう一つの役割
2016年リオデジャネイロ五輪の出場権を争う最初の選考大会となる天皇杯全日本レスリング選手権が終わった。この大会で優勝すると、リオ五輪への出場権を得られる2015年世界選手権(9月・米国)の代表選考対象とされる。23日には、五輪4連覇を目指す吉田沙保里(ALSOK)が女子53kg級で優勝した。昨年までの55kg級優勝と合わせて12度目のV。2kg少ない新階級、53kg級になったことで、かえって体調はよかったという。 「53kgは私にとってベスト体重。55kg級のときは、いつも体重が足りなくて苦労していましたから。大人の選手として強くなれる年齢で女子が五輪の種目になったことも、今回のように階級システムが変わって苦労しない体重で試合が出来るようになったことも、いつもいいタイミングで変化がきてくれる。神様が味方をしてくれているのかなとさえ思うときがある」 すべての試合をフォール、またはテクニカルフォールで勝ち抜く完璧な内容だったが、自分の圧勝ではなく若手の台頭をひしひしと感じてもいるとも続けた。 女子53kg級で準決勝以上に勝ち残った選手は、決勝で対戦した世界選手権55kg級金メダリストの浜田千穂(日本体育大)が22歳、準決勝の相手だった入江ななみが19歳、トーナメントの反対ブロックで浜田と戦った向田真優は17歳だ。たとえ十代の選手であっても、彼女たちについて「どの選手がきても戦えるように研究していました」と対等な勝負であることを忘れない。 32歳。出場選手のなかで最年長になることが増え、世界を見渡しても同年代の選手が少なくなった。最近になって意識しているのは、後輩たちに精神的なものも伝えたいということだ。 「48kg級の登坂絵莉が『沙保里さんみたいになりたい。五輪でも金メダルをとって、世界選手権と同じように一緒に金メダルを持った写真を撮りたい』と、いつも言ってくれる。戦いに集中することとか、勝ちたい気持ちを忘れずに戦うことが強いことだとか、そういった私の思いが伝わっているのかなと思うと嬉しい。レスリングのテクニックとか、練習内容とか、そういうことを教えることは今までもやってきた。でも、精神的なことを伝えるのは難しい。私が動くことで何かが伝わるのなら頑張りたい」 ふだんの練習や合宿で直接、接する後輩レスラーたちだけでなく、世界の女子レスラーやレスリングに関心を持つ人へ訴えかける準備も始まっている。