ゲートの先に(9月7日)
70年に及ぶ中央競馬の歴史の扉が開かれた。と言っても、サラブレッドの話題ではない。レースの場内実況。今春初めて女性アナウンサーが登場した▼ラジオNIKKEIの藤原菜々花[ななか]さん。入社5年目だが、競馬はズブの素人だった。今や大勢の観客に向け、双眼鏡越しに「戦況」を伝える。雨や霧で馬の判別がつきにくくなる。ゴール前で態勢が一変することも。「常に冷静に」と肝に銘じている。今夏の福島開催でもマイクに向かった▼スポーツ実況の世界に女性は多くない。業界内では、甲高い「キンキン声」が視聴者やリスナーを疲れさせると考えられてきた。どうやら、誤解だったらしい。デビューから半年が過ぎ、藤原さんの声は落ち着きを増し、耳になじんできた。初心者の目線を忘れず、丁寧に競走馬のあれこれを教えてほしい。ファンはさらに増える▼夕食の支度をする人がいる。想像したのは男性か、女性かと、問うACジャパンのCMがあった。「正解がないのこそ、正解」と、皆が自然に答えられるだろうか。ジェンダーという名のゲートをもっと大きく押し開きたい。その先に目にもまぶしい世界が広がる。涼風なでる緑のターフのような。<2024・9・7>