井上尚弥、村田諒太の世界戦でNHKが57年ぶりにボクシング中継を解禁する理由と意義
井上、村田という2人の人気ボクサーのクリーンなイメージと、所属ジムの努力。パウンド・フォー・パウンド4位にランキングされるほど世界的評価を得ている井上の日本のボクシング史上に刻まれる“本物の強さ”と、世界のボクシング市場のトップに君臨しているミドル級で世界王者となり、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)といったスーパースターとの頂上決戦が現実味を帯びてきた村田の存在感が“開かずの扉”をこじ開けたと言える。実はNHKは57年前からミドル級に焦点を合わせていた。 また今回、NHKが中継するのは「BS8K」で、画素数が従来のテレビの約16倍もある8Kの超高精細映像が売りの2018年12月1日から放送が始まった新サービス。特にスポーツ中継に向いているとされ、スロー映像は飛び散る汗や、筋肉の動きまで映し出すことができる。今回のラグビーワールドカップも、この「BS8K」で放映され、全国のパブリックビューイングなどで高画質が評判を呼んでいた。ボクシングは、その迫力を伝えるには、まさにうってつけのコンテンツで、「BS8K」の視聴率を高めるプロモーションとして、井上、村田の2人が、その最高の商材として、あてはまったというNHK側の裏事情もある。 だが、NHKが中継することで、プロボクシングが、公共的市民権を得たとみなされ、全国、津々浦々に視聴は広がり、単なるフジテレビの独占イベントの枠を超えていくことは間違いない。 そうなると健全なスポーツとしての社会的認知度はアップ。スポンサーも集まりやすくなり、ボクシング人口の減少に悩むボクシング界にとっても、子供たちに訴えることででき、その底辺拡大に役立つことになる。 井上対ドネア戦のNHK中継を受け入れた大橋秀行会長も、「数か月前に話をもらって交渉していた。ボクシング界にとってNHK中継の復活は悲願だった。57年ぶりでしょう? 本当に凄いこと。それほど、井上尚弥の価値が認められたということだろうが、我々も、さらなる努力を続けていきたいし期待に答えたい」とコメントした。 実は、57年前に最後のNHK中継のリングに立った海津文雄氏は、大橋ジムの松本好二トレーナの父である弘氏が現役時代に新人王戦で戦ったボクサー。大橋会長は「何かの縁を感じる」とも言う。 「ボクシングだけを見てもらいたい。そこから新しい時代を切り開きたい」というのが、井上のポリシー。今回のNHKの中継復活は、理想の展開なのかもしれない。6日後に迫ったドネアとのバンタム世界最強決定戦に、またひとつ負けられない理由が増えた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)