『ドラゴンボール Sparking! ZERO』なぜAmazonでのみ低評価? 問われるユーザーのモラルとリテラシー
10月10日、『ドラゴンボール Sparking! ZERO』が発売となった。 人気マンガを原作としたゲーム作品として、発売前から注目を集めてきた同タイトル。一部で好評を博しているものの、他方では平凡な評価にとどまっている現状がある。なぜおなじコンテンツをめぐって、このような乖離が起こってしまうのか。理由を踏まえ、そのような実態が示唆するものへと迫る。 【画像】好スタートを切った『ドラゴンボール Sparking! ZERO』のスクリーンショット ■「Sparking!」シリーズから17年ぶりの新作『ドラゴンボール Sparking! ZERO』が登場 『ドラゴンボール Sparking! ZERO』は、スパイク・チュンソフトが開発を、バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ)が発売を手掛けた、「ドラゴンボール」シリーズの新作対戦アクションだ。ゲーム中には、原作でおなじみの182体のキャラクターがプレイアブルとして登場。プレイヤーは、そのなかからお気に入りの1体を選択し、闘いの世界へと身を投じていく。 シリーズらしいキャラクター同士のバトルをメインテーマとして取り上げている点、主要登場人物の物語を追体験できるモードを備えている点が特徴となっており、このような性質から、2005年発売のスピンオフ『ドラゴンボールZ Sparking!』に連なるタイトルとされることもある。過去リリースされた「ドラゴンボールZ Sparking!」シリーズ3作品の全世界累計販売数の合計は350万本超。『ドラゴンボール Sparking! ZERO』もまた、一連の作品の人気を裏付けるように、発売24時間で世界累計販売数300万本を突破している。 対応プラットフォームは、PlayStation 5、Xbox Series X|S、PC(Steam)で、価格はパッケージ版/ダウンロード版ともに8,910円(税込)となっている。上記通常版のほか、ファン垂涎のさまざまな特典を盛り込んだ特別版も複数展開されている。 ■概ね好評も、乖離するネット上の評価。その理由が示唆するもの 前評判どおり、もしくはそれ以上の好スタートを切ったと言える『ドラゴンボール Sparking! ZERO』。ネット上には、早くも高評価の声が集まりつつある。 Steamプラットフォームでは、4万件超のユーザーレビューのうちの約93%が「好評」とし、上から2番目のレビューランクである「非常に好評」へと分類されている。ユーザーの声は概ね、「プレイアブルキャラクターの豊富さ」や「システムやグラフィックのクオリティの高さ」「原作の世界をありのままに体験できる楽しさ」などに着地する。一部には、レベルデザインやバランス調整に対し、苦言を呈するプレイヤーの姿もあるが、こうした点はアップデートによって改善できる点であるだけに、今後さらに評価は高まっていくはずだ。 実際に10月18日には、発売元であるバンダイナムコがパッチ配信のスケジュールを発表。現在のオンライン対戦環境において猛威を振るっている「ヤジロベー」をナーフ対象に名指ししたことも話題を集めた。少しずつブラッシュアップが進むことで、同タイトルは「ドラゴンボール」を原作としたゲーム作品の最定番となっていくのではないか。最高のレビューランク「圧倒的に好評」には、「好評」の割合があと2%増えることで到達する。現時点での評判を考えると、すでに秒読み段階とも言えるだろう。Steamプラットフォーム同様、PlayStation Storeにおけるレビューでも、5点満点中の4.75という高い評価を獲得している。 その反面で、目に留まったのが大手ECサイトのAmazonにおける評価だ。SteamプラットフォームやPlayStation Storeにおけるレビューを踏まえると、5点満点中の4.5以上は固いはずであるが、Amazonでは星3.2と、両者に比較して著しく低いスコアとなっている。おなじタイトルをめぐる評価に、なぜこのような乖離が起こってしまうのか。その理由とみられるのが、レビュー行動に対する特有のハードルの低さだ。 母国であるアメリカはもとより、日本でももっとも有名なECサイトであると言ってよいAmazon。気になる商品の評価を参照するとき、多くの消費者はまず、同サイトのカスタマーレビューに目を向けるだろう。少なくとも現状、そこにはどのECサイトよりも多くの意見が集まっている。自分と似た状況/観点で使用した人の声を見つけやすいという点は、ならではのメリットだと言える。 その一方で、Amazonはレビュアーを購入者に限定していない。つまり、広い範囲からレビューを募れる反面、そこには無責任な声も集まりやすいというわけだ。この点に関して、SteamプラットフォームやPlayStation Storeは、レビュアーを自サイトでの購入者に限定している。特に前者は、ヘビーゲーマーが多いと考えられるハードを対象としたサービスであるだけに、年齢やプレイ歴といった指標で自ずと評価が選別されている面もあるのだろう。 また、両者と比較し、Amazonでは、「ショッピングするためだけ」もしくは「商品に対する評価を投稿するだけ」のために作られた、いわゆる“捨てアカウント”の比率も高いのではないかと推測する。こうした一連の背景は、ネガティブキャンペーンにも悪用される可能性がある。その結果が、『ドラゴンボール Sparking! ZERO』における評価の乖離につながっている可能性がある。ここには、ファンの多い他分野の作品をゲーム化することへの反発もあるのかもしれない。 ゲーム市場では昨今、各サービス間で評価が乖離するタイトルを時折見かける。10月8日に発売され、その完成度の高さが話題となった『SILENT HILL 2』もまた、Steamプラットフォームでは95%の「好評」を得ているにもかかわらず、Amazonでは星3.5と、著しく低い評価にとどまった。リメイクをめぐるギャップもまた、ファンの多い作品をゲーム化する難しさを抱えた『ドラゴンボール Sparking! ZERO』と同様の構図だと言えるのではないか。 なにかを購入するとき、見ず知らずの誰かの意見を参照することが当たり前となった現代、私たちはどの意見を参考にすべきか、情報の選別を行う必要があるのかもしれない。これは情報社会の草創期から現在に至るまで、ずっと重要性が叫ばれ続けているネットリテラシーそのものであると言える。 『ドラゴンボール Sparking! ZERO』などのタイトルに見られる各サービス間での評価の乖離は、「数字(あるいは立場や知名度)だけに振り回されないこと」「情報の適切な取捨選択」といった、現代における“基礎能力”の大切さを私たちに示している気がしてならない。ことメーカーの立場から見れば、いわれのない消費者の声に向き合わなければならないケースもあるだろう。さまざまな情報に触れることが容易となったいま、消費者はあらためて、リテラシーとモラルの重要性を問われているのかもしれない。
結木千尋