<安倍昭恵さんも登壇>妹を殺された男はなぜ「元犯罪者」に手を差し伸べ続けるのか? その葛藤に10年密着した『おまえの親になったるで』
かつて実の妹を殺された、犯罪被害者遺族である大阪の建設会社社長。 誘われて出所者に仕事を提供するプロジェクトに参加したものの、思いを裏切られるのもしばしば。それでもなぜ、彼は諦めないのか? 【写真】この記事の写真を見る(5枚) その葛藤に満ちた10年に密着したテレビ大阪のドキュメンタリーが劇場版映画になった。 ◆◆◆ 出所者の世話を引き受けてくれやて? なんでやねん。俺の妹は殺されたんやで。加害者を殺してやりたいくらいや。少年院や刑務所から出てくる奴らを、なんで俺が面倒見なあかんねん! 映画の主役、草刈健太郎さん(51)は当初、まさにこんな思いが胸をよぎったという。出所者に企業経営者が住まいや仕事を提供し、再犯を防ぐ「職親(しょくしん)プロジェクト」。それに参加しないかと誘われたのだ。
「憎んでも憎んでもさあ、誰も助けてくれへんやん」
草刈さんは大阪の建設会社「カンサイ建装工業」の社長を務める。同時に20年近く前、25歳だった妹をアメリカ人の夫に殺害された犯罪被害者遺族でもある。 出所者への支援に葛藤はあったが、プロジェクトに誘ったのは、東日本大震災でともに炊き出しを行った先輩経営者、お好み焼き「千房」の中井政嗣社長(当時)だ。これは断れない。11年前、参加を受け入れた時の心境は…、 「加害者の支援じゃない。被害者を作らんために更生させんとアカン。(少年院などを)出てきても(出所者の)親が何もせえへんから、誰かがせなあきまへん。犯罪者が一人でも減ったら被害者もできへんわけやし」 圧巻のシーンがある。仙台の少年院で、もうすぐ出所する20歳の若者タイチと面会する草刈さん。タイチは生後間もなく母親が父親を刺し殺し、両親を知らずに育った。 「お願いします!」 大声であいさつするタイチに、 「そない気合い入れんでエエ」と返しながら、 「なんかある? おまえ、今、憎しみって」 「おばあちゃんとか、おかあさんですね」 母親への憎しみを率直に明かすと、草刈さんはうなずきながら、 「でも、しんどいやん、憎しみっていうのは。憎んでも憎んでもさあ、誰も助けてくれへんやん」 そして一息ついてまっすぐ目を見据えながら、 「家族になったるわ、な?」