「学校に無理して行かなくてもいいよ」→親に不登校を放置された子どもの行く末は?
「嫌だったら無理して学校に行かなくてよい」と考える大人が増えている。しかし、不登校児の中には、実は登校を望んでいる子どもや、登校しなかったことを後悔している子どもも多いのだという。不登校状態を安易に放置することで、成人後の引きこもり問題にもつながるなど、かなり深刻な問題を引き起こすおそれもある。本稿は榎本博明『学校 行きたくない 不登校とどう向き合うか』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 文部科学省の方向転換が 不登校を増加させた? このところ不登校に関しては、無理に学校に通わなくてもいいのではないか、という意見もみられるようになってきた。 かつては不登校への対応としては、校門までの登校、放課後の登校、保健室などの別室登校など、工夫をしながら学校に戻れるように支援していくのが一般的だった。もちろん今でもそうした支援が主流ではあるが、何も無理をして学校に戻らせなくてもいいのでは、と考える人も出てきている。 それには、学校が個人の個性に対応した教育ができていないなど、一斉教育に対する批判に代表されるように、学校に対する不信感が根底にあるように思われる。 だが、きっかけとしては、2016年に文部科学省により「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が公布され、この法律に則って不登校の児童生徒の教育機会の確保を推進するために、2017年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」が公表されたことがあげられる。 その基本指針では、「不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮」する必要があるとし、また支援に際しては「登校という結果のみを目標」にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的にとらえて、社会的に自立することを目指す必要があるとしている。
そして、不登校の児童生徒が教育を受けられるように、教育支援センターや特例校、夜間中学などの設置の促進を訴えている。 不登校の子どもたちに多様な教育機会を保障するのは大事なことである。だが、このような文部科学省の方針転換が不登校を増加させているとの指摘もある。 無理して学校に行かなくてもよいと考える親が増えていることは以前から指摘されてきたし、そうした文部科学省の方針転換がこのところの不登校の急増をもたらしているのかどうかはわからない。 だが、無理して学校に行かなくてもよいのではないか、という保護者がさらに増えるきっかけになったといえそうである。 ● 学校に行かなかったことを 後悔している不登校児たち 不登校の児童生徒の人数が増加し続けているだけでなく、成人後のひきこもりも増えており、2019年の内閣府による調査では、15歳から39歳よりも、40歳から64歳の中高年のひきこもりの方が多いことがわかり、深刻な社会問題とみなされるようになった。その後もひきこもりは増えており、2022年に内閣府により実施された調査では、15歳から64歳のひきこもり人数は約146万人と推定されている。