レイラ・ハサウェイが語る、黒人文化の誇りと驚異的なボーカル表現の秘密
グラスパーとの共演、ヒップホップへの想い
―ロバート・グラスパーの『Black Radio』シリーズの全作に参加していますよね。即興が得意であることは、グラスパーがあなたを求めた理由のひとつだったと思うのですが。 レイラ:彼は、恐れない人と仕事をするのが好きだと言っていた。私は自分が考えていることを声に出して歌うことを恐れないし、変化も恐れない。彼のバンドと一緒にいると自信を感じるし、彼らは私を常により良いシンガー、ミュージシャンに成長させてくれていると思う。 ―『Black Radio』シリーズではこれまでシャーデー、スティーヴィー・ワンダー、ティアーズ・フォー・フィアーズの曲を歌ってきましたよね。他にもこれまでに多くのカバー曲を歌っていますが、どんな曲でもあなたの個性が強く感じられます。自分らしくカバーする際に大事にしていることはありますか? レイラ:大切なのは、その曲を愛すること。カバーとは、私にとってオリジナル・バージョンへのラブレターなの。それは私の父も同じだと思う。「What’s Going On」や「Superwoman」を聴けば、その曲に対する愛を感じることができる。私も、曲のメッセージを理解し、その曲を愛し、うまく歌うことが重要だと考えている。そして原曲の横に立てるようなものを作り、それがその曲の新しいスタンダードになることを望んでいる。 ―「Jesus Children」「Everybody Wants to Rule The World」のように深いメッセージが込められた曲を任されることも多いと思います。例えば、後者のカバーではどんなことを考えながら歌おうとしたのでしょうか? レイラ:まず第一に私が大好きな曲で、アレンジを聴いた時に原曲とは違うタイプのアグレッシブさを感じていた。もともと大好きでたくさん聴いて育った曲だから、昔の自分がこの曲を聴いてどう感じていたかを振り返ってみたんだけど、その頃とは違う攻撃性を持っている感じがした。もちろん私は、人々がいかに世界を支配したがっているかを考えながら歌ったし、これは真のメッセージでもある。でもロバートのアレンジの仕方が、この曲に込められたメッセージを物語っていると思った。だから歌っている時は、曲の意味を考えるよりも彼のアレンジメントに没頭してしまったと言えると思う。 ―あなたはテラス・マーティンと何度も共演していますよね。若い頃のテラスはどちらかといえばLAヒップホップシーンに属していたように思いますが、彼と共演するようになったきっかけは何だったんですか? レイラ:彼に出会ったのは1997年か1998年。その頃の彼はすごく若かった。当時のマネージャーが彼の高校時代からの知り合いだったのがきっかけ。もう20年以上一緒に仕事をしているけど、DJバトルキャットやDJクイックに会わせてくれたのも、ケンドリックのセッションに呼んでくれたのも彼だった。その一方で、彼はジャズにも精通していて、ハービー(・ハンコック)と共演することもあればスヌープ(・ドッグ)と共演することもある。それは私がやりたいことでもあるのよね。 ―あなたがヒップホップに関心を持ったときのことを聞かせてもらえますか? レイラ:私にとってのヒップホップは80年代半ばのもの。当時聴いていたのはRUN DMCやLL・クール・Jあたり。その後はバークリーに行ったから、ジャズばかり聴くようになった。だから私にとって、ヒップホップは楽しんで聴く音楽だったの。歌詞も全部理解できたし。ファンクマスター・フレックスやクール・モー・ディー、ビッグ・ダディ・ケイン、クィーン・ラティファ、MCライト、ソルト&ペッパーといった辺りね。大学に通うようになってからラジオを聴かなくなってしまったけど、その頃にア・トライブ・コールド・クエストとか(ギゃング・スターの)グールーとか、ジャズがミックスされたヒップホップに出会えたのも大きかった。そんなふうに大学時代は東海岸のヒップホップと接してきて、その後はLAに引っ越して、スヌープやドレー、DJクイック、バトルキャットといった西海岸ヒップホップの大物たちと繋がることができた。本当にラッキーだったな。 ―その後、あなたの声はヒップホップの歴史的な録音の数々で重要な役割を果たしていくわけですが、自分にとってヒップホップとはどんなアートフォームだと言えそうですか? レイラ:ヒップホップは多くの進化を遂げてきたし、今も進化し続けているから面白い。アメリカの黒人文化、特にアメリカの黒人音楽は、世界中の音楽に影響を与えていると思うし、黒人文化を代表するものの一つだと思う。ヒップホップは、ある時はラップであり、ある時はMCであり、ある時はブレイクダンスでもある。つまり、包括的な文化であり、アメリカの黒人の服装、ヘアスタイル、言語、音楽、映画、パーソナリティといったすべてを表現していると思う。そして私にとって、ヒップホップは自分の文化の名刺代わりであり、あらゆるものにインスピレーションを与える表現でもある。例えば、日本に行ってもヒップホップを目にするし、アフリカに行っても、ドイツに行ってもそこにはヒップホップがある。ヒップホップは今、生誕から52年目を迎えているけれど、これからも自分たちの周りにずっと存在し続けるものだと思ってる。 --- レイラ・ハサウェイ来日公演 2024年11月17日(日)東京・ビルボードライブ東京 2024年11月18日(月)大阪・ビルボードライブ大阪 2024年11月20日(水)、21日(木)東京・ビルボードライブ東京
Mitsutaka Nagira