レイラ・ハサウェイが語る、黒人文化の誇りと驚異的なボーカル表現の秘密
驚異的なボーカル表現の秘密
―あなたはデビュー当初からずっと自分で作曲もしています。『VANTABLACK』ではほぼ全曲のソングラティングに携わってますよね。なのでお聞きしたいのですが、これまで研究してきたソングライターは? レイラ:私は作曲家も作詞家も大好き。例えばウェイン・ショーターとかね。あとはケンドリック(・ラマー)。彼のリリシズムは素晴らしい。一度フィルを通じて(ムーンチャイルド/Catpackの)アンバー・ナヴァランとも仕事をしたことがあるけど、そこからも多くを学んだ。そして私の夢は、ジョニ・ミッチェルやダニー・ハサウェイ、スティーヴィー・ワンダーのような偉大な作曲家になること。彼らのように、永遠に残る曲を書けるようになれたら素晴らしいと思ってる。 ―あなたの曲は、聴くとあなたの曲だとわかるくらい特徴を持っていると思うのですが、それってどんな部分によるものだと思いますか? レイラ:私にはわからない。それはリスナーが決めることだと思う。今作も含めて、ここ数枚のアルバムでは全てコライトしてるしね。ただ、他のアーティストよりも自分自身の声と楽器をより理解しているから、そのフィーリングが音になって出ているのかもしれないとは思う。デヴィッド・サンボーンやマーカス・ミラーのレコードに参加したときもそうだけど、他の誰かが私に持ってくるメロディにも常に自分のエネルギーを持たせて「自分にとってしっくりくるものであるか」「キーが私に合ってるものであるか」をすごく意識している。どうミックスされたのかも知りたい。自分が歌っているすべての曲は、私も少しライティングに関わっているようなものなのかもしれないって思う。 ―自分のボーカリストとしての部分と、曲を書く部分がコネクトしているということでしょうか? レイラ:そうね。私にとってはそうである必要がある。アーティストの中には、気づいてないけど実はプロデュース作業をやってる人も多いと思う。15年前の私だったら自分をプロデューサーとは呼んでいなかったけど、今の私ならプロデューサーを名乗れるかな。だって、トラック自体は作っていなくても、「ここのベースの音を変えよう」「ボーカルをここに移動させよう」とか、そういうことを決めているから。そのすべての作業が私にとってはプロダクションであり、私はそのすべてに参加しているしね。 ―ボーカリストとしての特徴でいうと、あなたはデビューしたての頃からすごく先鋭的なハーモニーを使ってきましたよね。 レイラ:私もそう思う。でも、どうやってそうなったのかはわからない。それも私のスタイルの一部なのは間違いないけど。 ―今回のアルバムでは「Clearly」の終盤であなたのスキャットが聴けます。ああいった器楽的な歌唱法はどこで身につけたものなのでしょうか? レイラ:バークリー音大に行く直前、母にバークリーに行きたいと言ったら、「あそこはジャズの学校なんだから真剣にジャズを学びなさい。遊び半分で言ってはダメ」と言われた。私はその言葉を重く受け止めた。学校ではスキャットをやってる人たちがたくさんいたから、私もやってみようと思ったんだけど、なかなかうまくできなくて。そんな時にサックス奏者のウォルター・ビーズリー先生に相談したの。彼は「最初はうまくいかないし、むしろ変に聞こえるかもしれない。でも続けるうちに必ず自分の声を見つけることができる。だからやり続けなければならない」と言ってくれた。彼の言葉のおかげで、私は今自分が自由に使えるボキャブラリーを持っている。スキャットや言葉のない歌を歌うことは、私にとってとても自然なこと。いつかは、言葉のないレコードを作りたいと思っているくらい、私の表現方法の一部になっている。 ―ということは、いわゆるジャズ・ボーカリストになっていた未来もあったかもしれないと。 レイラ:そうね。以前マーカス・ミラーのバンドに参加していたとき、トランペット奏者のパッチズ・スチュワートがギグに出られなくなって、彼のパートを歌ってたことがあるんだけど、あの時みたいな感じでバンドと一体感を感じるのも好きだし。 ―声を使った即興に関しては、どんなアーティストを研究していたのでしょうか? レイラ:私は教会で育ったから、誰かが即興演奏しているのを常に見てきた。アメリカの黒人音楽の大部分は即興とアドリブを伴うもの。だから、私はそれを基礎音楽として育った。そしてバークリーに行き、チャーリー・パーカーやウェイン・ショーター、マイルス・デイヴィス、エラ・フィッツジェラルド、ジョン・スコフィールドといった、コードを弾けばすべてがついてくるようなアーティストたちのレコードを聴き、そこからもたくさん学んだ。だから私のスタイルは、元々持っていた性質と後から自分で学んだことが混ざっているってこと。 ―そういった器楽奏者のソロを譜面に起こして分析したりもしていましたか? レイラ:授業でそれをやったことはある。でも、大学時代のルームメイトがよく言っていたのは、レコードを聴きながら寝ると、寝ている間にそれを覚えるということ。だから大学時代は、ジャズのインプロバイザーをたくさん聴いた。例えば『Kind Of Blue』については、ベースやピアノ、ドラムや管楽奏者が何をしているのか、そのすべてを理解している。臨床的まではいかないかもしれないけど、私はそうやって聴くことによっても音楽を学んだ。