東出昌大が語る山奥の狩猟生活「血の温かさや内臓から立ち上がる湯気は、半端なく生々しい」
東出 そういう気持ちに踏ん切りがつかないまま、最初の弾が撃ち出されたと思います。狩猟の勉強をして、免許を取得して、猟師の師匠に猟場に連れていってもらえることになりました。そして、獲物のシカがいて「撃てる!」ってなったときに「本当に撃っていいんだろうか?」って思うんです。「でも、弾はこういう軌道で飛ぶって勉強したし、この先にはバックストップという弾止め(遮蔽物[しゃへいぶつ])もある。ここは公道じゃない。撃っていいんだよな。撃っていいんだよな」って思って引き金を引いて、弾がバーンと撃ち出されていく。そして、弾が当たって、シカが崖を転がり落ちていく。そこに走り寄って、師匠から「刺せ!」と言われて首を刺して、「そこじゃない!」と言ってもがくシカを見る。 覚悟を持って臨んだつもりでしたけど、殺した後の喪失感というのは、ものすごく大きかったですね。「かわいそうだと思わないのか?」と聞かれれば、かわいそうだと思います。 ――かわいそうだけれども、撃たなきゃと思う気持ちは、どこから来るんでしょうか。 東出 すごくまとまっていない話になってしまうかもしれませんけど......。「食べるためだったら、スーパーだって肉は売っている」というのはわかります。でも、その肉だって誰かが殺しているわけです。じゃあ、なぜ「自分で殺す」という選択をしなくてはいけないのか。よく「殺すと血を見るんでしょ。目の前でジタバタもがくんでしょ。かわいそうじゃん」と言われます。殺したときは、やはり罪悪感はありますし、血の温かさや内臓から立ち上がる湯気は、半端なく生々しいです。でも、僕はそれも含めて"食う"ってことなんじゃないかと考えているんです。 ――命をもらって、自分の命をつなぐということですかね。 東出 猟師の中には「そんなことをいちいち考えていたら、狩猟なんかしていられない」と言う人もいます。でも、僕はどうしても考えてしまう性格なんです。 昨夜、後輩から連絡があって、「道路でシカが車に轢(ひ)かれてもがいています。助かりそうにないので来てください」と言われました。それで「わかった」って行ったら立派な雄ジカでした。そして、「早く殺さないと」と思って喉にナイフを立てると血がバーッと出ました。 そのとき、後輩が「食べられて良かった」と言ったんです。轢かれて、ただ捨てられる命だったら、やるせない気持ちになるけれど、殺して食べるのであれば、まだ気持ちが救われる。シカも成仏できるというか、まだ報われる気がするんです。やはり、命を粗末にしたくない。ムダな殺生はしたくない。だから、動物を殺すのが面白いとはまったく思っていません。 すみません。僕が猟について考えていることのまだ2割くらいしか言語化できていないんです。 ――でも、狩猟に対する気持ちが、少しはわかったような気がします。こういうことって、都会で暮らしているとあまり考えないですよね。 東出 そうですね。だから、人にもよると思うんですが、僕はこっちで暮らしているほうが"生きている""生きようとしている"という感じがするんです。 ――そうした東出さんの狩猟などを追ったドキュメンタリー作品『WILL』が、2月16日から全国順次公開されます。なぜ、出演のオファーを引き受けたんですか? 東出 ここ数年、自分で自分がわからなくなっていたんです。そんなときに「自分ってどんな人間なんだろう」って客観的に知りたくて被写体になりました。だから、けっこう本心を吐露しています。それで試写を見たら「うわー、俺ってこんなちっちゃい人間だったんだ」「こんなグチグチしてたんだ」と。監督のエリザベス宮地さんは、本当に容赦なく僕を撮影するので、生きた心地がしませんでした。 ――生きるって難しいですね。ありがとうございました。 ●東出昌大(Masahiro HIGASHIDE) 1988年2月1日生まれ、埼玉県出身。俳優。モデルを経て、2012年に『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2023年は映画『Winny』や『福田村事件』に出演。現在、北関東の山奥で暮らしている 『WILL』 東出昌大の狩猟生活を追ったドキュメンタリー映画。監督はエリザベス宮地氏。140分という大作。2月16日から全国順次公開予定 c2024 SPACE SHOWER FILMS 取材・文/村上隆保 撮影/村上庄吾