東出昌大が語る山奥の狩猟生活「血の温かさや内臓から立ち上がる湯気は、半端なく生々しい」
――確かに。周りに人がいないですからね。 東出 でも、100年前の山間部に住む人たちの生活って、こんな感じだったんじゃないでしょうか。そう思ったら、十分に生活できます。それに、今はチェーンソーや車もある。100年前の人たちより、ずっと便利なんです。 ――なるほど。 東出 ただ、危険もあります。うちの裏に銀杏(ぎんなん)が落ちているんですけど、僕が仕事でちょっといない間に、その銀杏を食べたであろうクマの糞(ふん)が落ちていたんです。家の裏手にクマが出るので、注意しなくてはいけない。それから、山を歩いているときに黒い岩があったら、それはだいたい濡れて凍っているんです。その岩に乗ったら足を滑らせて、崖から落ちるかもしれない。 ――死と隣り合わせですね。 東出 死と隣り合わせというほど、登山家みたいな生活はしていませんが、ある意味では似ているかもしれませんね。自然環境を侮ってはいけないと思います。雪が荒ぶっている日は「マジでガンガン火をたかないと凍え死ぬぞ」と思うこともあるんです。逆に言えば、それくらい"自分は生きようとしているんだ"という実感があるんです。 ――なんか、かなり死と隣り合わせな生活をしている気がしますが......。 東出 「だったら、安心安全な場所に行けばいいじゃん」と思うかもしれませんが、僕は安心安全な世界にいたけれども、どんどん心がえぐられて、無味乾燥になっていき......。今の生活のほうが、とても心が潤っているんです。 ■動物を殺すのはかわいそうだと思います ――東出さんは、この山小屋で主に狩猟生活をしていますが、いつ頃から狩猟に興味を持ったんですか? 東出 23歳のときに千松信也(しんや)さんの『ぼくは猟師になった』(新潮文庫)という本を読んだのがきっかけです。千松さんが大学生の頃、狩猟で獲(と)ったシカを学生寮に持って帰って、自分でさばいて友達とワイワイやりながら食べたという描写が心に残っていたんです。また、そのときの千松さんは大学生だったので、23歳の僕でも狩猟はできるんじゃないかと思ったんです。 ――で、すぐに狩猟免許を取った? 東出 いえ、ずっと狩猟免許は取りたかったんですけど、狩猟免許の試験日に仕事が入ったりして受けられなかったんです。それで、5年くらいは取れませんでした。 ――「動物を殺すのはかわいそうだな」と思う人もいると思うんですが、東出さんはそういう気持ちを自分の中でどう納得させたんですか?