デジタル時代に「コミュ力」「ストレス耐性」を上げるなら剣道が一番⁉︎ 真にアナログな武道に学ぶ「生きる力」の本質とは
限界突破の哲学 なぜ日本武道は世界で愛されるのか? #3
言葉のちょっとした行き違いで、一方的に相手をブロックする。「この人はおかしい」と、自分の意に沿わない相手を排除していく。世界中の誰とでも繫がれる利便さの裏で、コミュニケーションの幅はむしろ狭くなっていると嘆くのは、日本の武道学者アレキサンダー・ベネット氏。 著者のアレキサンダー・ベネット氏 書籍『限界突破の哲学』より一部抜粋・再構成し、武道に学ぶことができる生きる資質について解説する。
ストレスは心の弾力性を鍛える
武道的な強さを身に付けるには、まずは身体を鍛えないと始まりません。肉体的トレーニングが絶対に必要です。 そして肉体的な強さを引き出して活用するには、心の役割も重要です。気剣体一致で行なう剣道の稽古は、身体を鍛えると同時に、気、すなわち心も鍛えていくものです。 もちろん、スポーツの練習でも、技術を習得するには、体と心の両方を鍛える必要があります。技の土台は体ですから、ある技を磨き上げて、よりすぐれた技にするためには、まず体を鍛え上げる必要があります。 そして肉体的な限界を超える時には、心の助けが必要となります。息が上がり、もうこれ以上動けない。ここでもうひとがんばりできるかどうかは、その人の心次第です。ですから、体を鍛えるプロセスで、心も自然に鍛えられることがあります。また逆に、集中力などの心の要素が鍛えられていないと、技がうまくできないということもあります。 その点ではサッカーなどのスポーツも、競技としての剣道も、共通しています。体を鍛えることで、心も鍛えられる。体を鍛えると共に、心も鍛えている。 ただし剣道には競技性の他に、実戦性と文化性の側面があります。まずはじめに戦の世界で生まれた殺人刀(実戦性)があり、江戸時代に剣術として昇華された活人剣(文化性)があり、それを受けて、現代剣道のスポーツマンシップ・ゲームマンシップ(競技性)があるのです(図5)。 この三者は分かちがたいもので、競技としての現代剣道にも、文化性と実戦性の伝統が息づいています。 高校時代、剣道部の稽古に最初に抱いた印象は「軍事訓練」でした。壮絶な掛かり稽古、先生の怒声、生徒の悲愴な金切り声……緊張感と殺気に満ちていて、恐ろしかったです。 ニュージーランドの高校では部活を掛け持ちして、メインのサッカーは週に2、3回。緊張することなく、ストレスを感じることもなく、楽しく練習していました。まさしく「プレイ」、遊びの感覚です。 試合の時は勝ちたいから、若干のストレスは生じますが、基本的にサッカーは楽しいものでした。だけれどサッカーのような遊び感覚の楽しさは、剣道にはありません。その気持ちは今も変わらず、よく考えたら、剣道の稽古そのものを楽しいと思ったことはないように思います。 もちろん、達成感が無いわけではありません。厳しく苦しい稽古のなかに、自分で楽しさを見つける喜びはあります。ですが上の図の通り、剣道は実戦性のある真剣勝負ですから、その本質は「人と戦う」ことです。一歩間違えたら暴力になる可能性があり、稽古でも試合でも、常に独特な緊張を強いられます。 サッカーは激しいこともありますが、基本的に楽しくプレイするもので、ストレスを発散するものでした。ですが剣道の場合は、やることで逆にストレスがかかるのです。 そして、「そのストレスにどう耐えるか?」ということを、剣道は教えてくれます。楽しさや達成感の質が、サッカーのようなスポーツとは異なるのです。
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