「最高裁事務総局での生活は苦痛でしかなかった」…アメリカ留学から帰国した「エリート裁判官」を待ち受けていた2年間の”地獄の日々”
「裁判官」という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ごく普通の市民であれば、少し冷たいけれども公正、中立、誠実で、優秀な人々を想起し、またそのような裁判官によって行われる裁判についても、信頼できると考えているのではないだろうか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 残念ながら、日本の裁判官、少なくともその多数派はそのような人々ではない。彼らの関心は、端的にいえば「事件処理」に尽きている。とにかく、早く、そつなく、事件を「処理」しさえすればそれでよい。庶民のどうでもいいような紛争などは淡々と処理するに越したことはなく、多少の冤罪事件など特に気にしない。それよりも権力や政治家、大企業等の意向に沿った秩序維持、社会防衛のほうが大切なのだ。 裁判官を33年間務め、多数の著書をもつ大学教授として法学の権威でもある瀬木氏が初めて社会に衝撃を与えた名著『絶望の裁判所』 (講談社現代新書)から、「民を愚かに保ち続け、支配し続ける」ことに固執する日本の裁判所の恐ろしい実態をお届けしていこう。 『絶望の裁判所』 連載第6回 『“医師”と“製薬会社”がグルになって不正を…《癒着》が引き起こした恐るべき薬害『クロロキン事件』とは』より続く
日本の最高裁判所事務総局で感じた違和感
アメリカでの一年間で違和感や寂しさを感じることはほとんどなかった。むしろ、日本に帰ってからの再適応のほうがきつかった。それでも、当初は浜松ののどかな暮らしで、いやなことがなかったわけではないが楽しいことのほうが多かったからよかったが、その後の最高裁判所事務総局民事局局付の2年間は、当時の上司の中に性格的な問題の大きい人物が含まれていたこともあって、少し大げさにいえば地獄の日々だった。 最高裁判所事務総局という組織は、後にも詳しく触れるが、裁判官と裁判所職員に関わる行政、すなわち「司法行政」を行うことを目的とする最高裁判所内部の行政組織であり、大きく、人事局、経理局、総務局、秘書課、広報課、情報政策課の純粋行政系セクション(行政機関の場合の官房系に相当)と、民事局、行政局、刑事局、家庭局の事件系セクションとに分かれている。 民事局は上のとおり事件系のセクションの一つである。各局には、1名の局長、2名以上の課長、そしてその下で働くおおむね数名の局付(多くは判事補)がおり、人事局、経理局の課長の一部を除けば裁判官である。この組織には、数の上からいえば裁判官よりもずっと多くの裁判所書記官・事務官も働いているが、実際に権限をもっているのは前記の裁判官だけであるといってよい。 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。