慶大でイスラムを学び、大一番の前に4000字のレポート…… パリで金メダルをめざす女子レスリング・尾﨑野乃香の素顔
慶應義塾大学の尾﨑野乃香(4年、帝京)がレスリング女子68kg級代表として、今夏のパリオリンピックに出場する。62kg級の国内選考に敗れ、一度は途絶えた夢だったが、階級変更に踏み切ってオリンピックへの切符をつかみとった。 【写真】パリオリンピック代表決定プレーオフを制し、笑顔があふれた
「世界で勝つより難しい」国内女子代表選考レース
パリオリンピックのレスリング競技は8月5日から始まる。その初日に試合があるのが女子68kg級だ。尾﨑は「しっかりと金メダルを取って、レスリング(全体)を盛り上げていきたい」と気合が入っている。 2022年9月の世界選手権は62kg級で優勝した。パリオリンピックに向けても同じ階級で挑んでいたが、「世界で勝つよりも国内で勝つほうが難しい」と言われるほど、日本女子の代表選考は熾烈(しれつ)を極めた。 尾﨑は代表選考レースが始まった22年12月の全日本選手権、翌23年の全日本選抜選手権で敗れ、3位以内に入れば代表に内定できる世界選手権に進めなかった。それは日本女子の高いレベルを考えると、パリへの道が限りなく閉ざされたことを意味した。全日本選抜の試合直後、尾﨑は「レスリングを始めた頃からの夢がオリンピック。今後もオリンピックに出て優勝するという大きな目標は変わらない」と話し、28年のロサンゼルス・オリンピックに目標を切り替える発言をしていた。 そうはいっても、心は重いままだった。「何をしても楽しくなかった。レスリングも、ただこなす毎日。人生つまんないって思っていた」
階級を上げることを決め、課題の防御を強化
そんな時、非オリンピック階級ではあるが、世界選手権65kg級の代表決定プレーオフに出場するチャンスが巡ってきた。尾﨑は母の利佳さんから、「世界チャンピオンを目指すっていうのもすばらしいことだよ」と背中を押された。 「何をしたらまた輝けるかなって思っていた時に、65kg級でも優勝したら2階級王者として見てもらえると思ったら、今までと全然違う気持ちになれた」 新たな目標が見つかり、練習にも再び熱が入るように。プレーオフを制して代表になると、23年9月の世界選手権でも頂点に駆け上がった。その場で62kg級はライバルの元木咲良がパリオリンピック代表を射止めたが、68kg級は日本の出場枠獲得のみが決まり、代表選考は白紙に戻った。 尾﨑にとっては、小さい頃からの夢に再び挑めるチャンス。階級を上げることを決めた。 課題の防御面を強化するために知人のつてを頼り、山梨・韮崎工業高校で指導する文田敏郎氏を訪ねた。息子の健一郎は、東京オリンピック男子グレコローマン60kg級の銀メダリストだ。尾﨑は毎週末、大学の授業が終わった後に山梨へ。日曜に帰京するまで、文田氏のもとで徹底的に防御を磨いた。そして昨年の全日本選手権で優勝を遂げ、代表決定プレーオフへの道を開いた。プレーオフでは残り9秒からの逆転勝ちで、パリの切符をもぎ取った。 「一回どん底を見ちゃってるから失うものがなかった。62kg級で代表を取れなかったときに、自分のがんばりが相手よりも下回っていたことを認めた。そうしたからこそ、自分が次に同じ後悔をしないようにしようって思えた」と振り返る。