綿密な取材&CG技術で“1950年代の端島”を完全再現…野木亜紀子氏×塚原あゆ子監督が語る「海に眠るダイヤモンド」制作秘話
神木隆之介が主演を務める日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(毎週日曜夜9:00-9:54、TBS系)が現在放送中。このたび、脚本・野木亜紀子氏と監督・塚原あゆ子氏のインタビューコメントが到着。本作で描く時代背景や新たな挑戦について語った。 【写真】巧みな演じ分けが話題に…現代パートの主人公・神木隆之介“玲央” ■これまでの日曜劇場とは一線を画す“ヒューマンラブエンターテインメント” 同作は、1955年からの石炭産業で躍進した長崎・端島と、現代の東京を舞台にした70年にわたる愛と友情、そして家族の壮大な物語。 戦後復興期から高度経済成長期の“何もないけれど夢があり活力に満ちあふれた時代”にあった家族の絆や人間模様、青春と愛の物語を紡いでいくと同時に、現代の“一見して何でもあるけれど若者が夢を持てない時代”を描き、過去から現代に通じる希望を見つけだす、時代を超えたヒューマンラブエンターテインメントだ。 脚本は野木、監督は塚原、プロデューサーは新井順子が務め、「アンナチュラル」(2018年)、「MIU404」(2020年、共にTBS系)などを手掛けたヒットメーカーたちが、完全オリジナル作品で初の日曜劇場主演に挑む。 ■昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ登場人物を演じるのは… 神木は、1950年代の端島に生きる主人公・鉄平に加え、現代の東京に生きるホスト・玲央の一人二役を演じる。 また、鉄平の良き理解者である兄・進平役で斎藤工、鉄平に思いを寄せる食堂の看板娘・朝子役で杉咲花、端島に突然現れた謎の女性・リナ役で池田エライザ、鉄平の親友でありライバルである賢将役で清水尋也、ある過去を抱える自由奔放な鷹羽鉱業職員の娘・百合子役で土屋太鳳が出演。 さらに、謎多き行動で物語をかきまわしていく婦人・いづみを宮本信子が演じる他、國村隼、沢村一樹、中嶋朋子、山本未來、さだまさしといった実力派俳優陣がストーリーを盛り上げる。 ■1950年代の端島を描くため行った1年の綿密な取材 ――制作にあたって、かなり取材を重ねられたそうですね。 野木亜紀子(以下、野木):脚本執筆のため、昨年の夏頃から1年くらいかけて取材をしました。塚原さんとプロデューサーの新井さんは他作品の制作もあり事前取材の参加が難しかったのですが、取材が十分にできないまま描くことはどうしても避けたかったし、1人での取材には限界があるので、長崎県出身の林啓史監督(大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年、NHK総合ほか)など)に協力をお願いしました。 実際に長崎を訪れて元島民の方々への取材を行ったのですが、80代の方が中心で皆さん長崎弁を話されるので、よそ者の土地勘もない私だけで取材に臨んでいたらかなり苦労していただろうなと思います。林さんがいなければ今回の作品は成立していません。 ――最初に端島に訪れたのはいつ頃ですか? 野木:実は端島が世界遺産に登録される前に、一度プライベートのバイク旅で訪れたことがありました。当時はまだ観光地化されておらず、「軍艦島ミュージアム」などもなかった頃。なので、島には上陸したのみでした。 二度目は新井さんとたまたま訪れて、元島民の方のガイドを聞くことができ、「これはドラマになるかも」と感じました。島には水源がなく生活がとても困難で、今では考えられないような環境での暮らし。そんな状況の中を生き抜く人たちの姿は、今を生きる人たちにどう映るのかなと思ったんです。このとき新井さんと訪れていたから今回の企画が生まれました。 ――日本初の鉄筋コンクリート造りの集合住宅があった端島。建物などの印象はいかがでしたか? 野木:今では本当にボロボロになっていますが、コンクリートの塊がしっかり残っていて、そのビジュアルのインパクトがすごかったです。 ただ、ドラマとして当時の端島の風景を再現するには、日本中から似ている場所を探して合成する必要があるわけで…塚原さんが「そもそも似ているところがない!」と苦心しています。 塚原あゆ子(以下、塚原):そうなんです。今まで多くの作品でロケ地を探してきましたが、今回は特に頭を悩ませています。 広さでいえば、新宿駅ほどの面積にさまざまな施設が凝縮され、約5000人もの人が集まって暮らしていた端島。そんな特殊な場所は現代には存在しないので、どこで撮影するにしても何かを付け足さないと成立しないんです。 ■新たなCG撮影で無人島を“世界一の人口密度を誇った島”に蘇らせる ――映像化のハードルがかなり高い作品ですね。 野木:いつもどんなに難しいシーンを描いてもなんとかしてくれる心強いチームなのですが、今回ばかりは本当に難航しているようで。柱書き(台本上で、シーンの場所や時間を指定する箇所)1つひとつに「これは無理だな…」と、無理だらけになったのは初めてのことでした(笑)。 塚原:劇中では島のてっぺんに神社がある設定なのですが、そこでの撮影が一番難しい。同じように島のてっぺんに神社のセットを建てても、背景に映る端島の住居はCGで足さないといけません。 さらに、1950年代の“緑がない端島”を再現しなくてはいけないのですが、今の日本に緑のない孤島なんて存在しません(笑)。そんな無理難題を日々どうにか乗り越えています。 ――撮影では実際にどのような工夫をされているのでしょうか? 塚原:現在の端島では廃墟の撮影しかできないので、本作ではCG技術を駆使して再現しています。空撮の画角で端島を再現するときには、セットの一部を映像として貼り付けるようなかたち。島を15個ほどのピースに分けて、「レゴブロック」のようなイメージで円形の島にはめ込んで、それと現代の端島をドローン撮影して全景として見せています。 野木:実景で島のシーンを撮る際も、島そのものを探すのではなく、港や通りなど、パーツごとに必要な部分を探して組み合わせていると聞いて…これは本当に大変なことを始めてしまったなと。 塚原:今回の撮影現場での勝負は、CGを使いながら、いかにリーズナブル&スピーディーに進行できるか。通常は主体をグリーンバックで撮影して、後からCGを合成する手法を使いますが、それには時間も予算もたくさんかかる。連続ドラマの10本の制作スピードには到底間に合いません。 なので、今回は現存の端島の寸尺に合わせてCGを先に作って、現場でその角度に合わせて撮影するという方法に挑戦。時間と予算の制約によって、これまで連続ドラマでCGを使ったダイナミックな映像制作を行うのは難しかったのですが、このやり方が上手くいけば、今後の新しい撮影手法の先駆けになるのでは…という淡い期待を込めています。 ある意味新たなチャレンジ企画でもあるので、温かく見守っていただけたらうれしいです。とにかく野木さんが次々といろいろと書いてくるから大変で…(笑)。 野木:「とりあえず書いて」って言われるから、とりあえず書いてるんですよ!(笑) その上で塚原さんと相談はしてるし、かなり直してはいるんだけど…。 塚原:いつも美術部さんが新しく出来上がった台本を見るとき、まずは香盤表を広げて柱書きを確認するのですが、新しい柱書きが出てくると一度台本を閉じて天を仰ぎ、一息ついて「どこでやるんですかこれ…?」って(笑)。「…考えよう!」と言いながら、みんなで知恵を振り絞っています。 でも、映画「ラストマイル」(2024年)も同じチームで乗り越えたので、本作もなんとかなると信じています! 野木:台本は全て仕上がっていますが、現代に存在しない風景を生み出すために日本各地で撮影をしているので、効率的に進めないと時間が足りない。そんな厳しい撮影現場では、スタッフさんたちが映像を作るために奔走し、総監督の塚原さんが指揮を執りながら一丸となって制作してくれています。 小さな土地に高層ビルが立ち並び、当時、世界一の人口密度を誇った端島がどう映像化されるのか、私自身も仕上がりが本当に楽しみです。 ■「海に眠るダイヤモンド」で描かれる“職業への誇り” ――お2人の作品では、普段は見過ごされがちな存在にスポットを当てることが多いと思いますが、本作ではその辺りをどう描かれていますか? 野木:取材を重ねる中で感じたのは、元島民の人たちの「端島愛」です。皆さん当時の苦労は語りながらも端島の出身であることに誇りを持っている。その一方で何十年もの間、出身を隠している方もいると聞いて。 石炭なくしては成り立たない時代だったのに、炭鉱一般に対して差別的な目線もあったんですね。そうした視点は、主人公の鉄平が故郷の端島を大切にする動機としても自然だろうと、ドラマの中でもそのまま描いています。 塚原:本作では、エネルギー革命時代の職業差別を捉えていますが、過去にも現代にも職業に対する差別や偏見は残念ながら存在します。 しかし、誇りを持って仕事をしている人たちにとって悲しいこと。どの職業にも、一緒に働く仲間、やり遂げる楽しさなど、自分の職業を誇りに思える鍵があるはず。そう考えると、今回描いている炭鉱の島で生きていた彼らがどんな表情で生きていたかが、1つの答えになっていくと思います。そこが優しく伝わるように、“職業への誇り”というものを描きたいと思っています。 野木:本作は取材に基づいたエピソードが多いのですが、キャラクター1人ひとりは誰かをモデルにしているわけではありません。あくまでフィクションなので、フィクションの事件が起こったりもします。1955年から閉山までの端島の史実をベースに、そこで生きる人々を描いた群像ドラマとして楽しんでいただけたらうれしいです。