大阪府が府民向けにIRセミナー開催 厳しい意見も
カジノを含む総合型リゾート(IR)を知ってもらおうと、大阪府が26日、大阪市内で府民向けIRセミナーを開催した。府は大阪市とともに市内ベイエリアへのIR誘致を目指す。IRは雇用創出や地域振興が期待される半面、ギャンブル依存に対する懸念が指摘されているだけに、IR実現には府民の理解や支持が欠かせない。
政策の大転換で生まれたシンガポールIR
セミナーでは、橋爪紳也府立大学教授と、デロイトトーマツグループでIR研究を手掛ける仁木一彦さんが講演。橋爪さんは「IRってなに?」と題し、IRという新しい考え方が国際観光の都市間競争に勝ち抜くために、シンガポールで大きな政策転換を経て生まれた背景や、同国におけるカジノ合法化からIR開業に至るプロセスなどを紹介。「2010年、同国で2か所のIRが開業し、6万人の雇用が生まれ、経済成長を押し上げた一方、ギャンブル依存症対策を強化することで依存症の人が減少した」と報告した。 地域振興や観光振興を実現したシンガポールモデルを軸に、数年来日本版IR推進の動きが本格化。昨年末のIR推進法案成立を受け、今年末までに実施法案が作られ、国会で成立すればIR開業に向けて加速する。 IR開業は早ければ、2023年か24年になる見込み。橋爪さんは大阪を含むIR誘致立候補地の動向を見据えながら、「国内だけではなく国際的な観光振興の観点から世論を喚起して、IRをよりいいものにできれば」と提案した。
IRライセンス取得は個人資産も厳密審査
仁木さんは、IR開業に伴う社会的課題に対する海外の対策に言及。たとえば、反社会勢力の関与懸念に関しては、ライセンス取得の厳格審査が効果的だとする。 IRを運営する場合、法人ばかりではなく、役員や主な管理職までが個人でライセンスを取得する義務を負う。「役員クラスはすべての資産を過去にさかのぼってチェックされ、不審な使われ方があった場合、アウトになるため、反社会的勢力の関与を排除できる。日本のIRで導入されれば、かつて日本の経済界で行われたことのない厳格なライセンス審査になるため注目される」と分析した。 ギャンブル依存症対策に関しては、シンガポールの入場規制が有効な対策のひとつと指摘。依存症の疑いがある人が家族にいる場合、本人に代わって家族が「本人が来ても入れないでください」と、カジノへの入場規制を申請できる。「家族からの申請があるにもかかわらず、誤って本人を入れてしまったら、カジノ事業者に厳しいペナルティが課せられる。だから、カジノ側が必死になって入場規制を守っている」と評価する。
質疑応答で厳しい意見も
この後、質疑応答の時間が設けられ、橋爪、仁木両氏と、府府民文化部都市魅力創造局企画・観光課の芝原哲彦課長が参加者からの質問に対応した。 一部の参加者から、ギャンブル依存症は深刻な社会問題であり、IRに反対する世論も根強いと指摘したうえで、「IR誘致は府の決定事項なのか。もっと府民の声を聞いて検討すべきだ」との意見があった。 大阪府は大阪市と連携し、ベイエリアの夢洲地区へのIR誘致を推し進める。府民の理解を深める粘り強い取り組みが必要になりそうだ。詳しくは大阪府の公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)