産学集積、医療の基礎研究から実用化までの連携後押し…手術支援ロボ誕生で米独占市場に風穴
「日本は基礎研究は高いレベルだが、社会実装になると世界に後れを取ってきた。ビジネスにしていかなければ」。大阪の都心・中之島に今年開業した最先端医療の産業化を推進する拠点「中之島クロス」で12月上旬、医療関連企業の担当者ら約70人に、運営団体「未来医療推進機構」の澤芳樹理事長(69)が熱弁を振るった。
中之島クロスは、一つ屋根の下に医療機関や研究機関、スタートアップ、製薬企業などを集積させ、基礎研究から実用化まで連携を図るのが特徴だ。すでに、入居する京都大iPS細胞研究財団(京都市)を中心に、患者の血液からiPS細胞を作製するプロジェクトが立ち上がっており、澤理事長は「再生医療のエコシステム(生態系)を構築する」と強調する。
世界市場へ
日本最大級の医療クラスター「神戸医療産業都市」(神戸市)。ここで2020年に生まれた国内初の手術支援ロボット「ヒノトリ」は国内64施設が導入し、泌尿器科や消化器外科など4診療科7000超の症例で使われ、将来は世界市場に羽ばたくことを目指す。
工場などで使われる産業用ロボットは日本と欧州で8割前後を占めるが、医療用は米国が9割を握る独壇場。国内も同様で、ここに割って入れたのは、バイクから鉄道、宇宙ロケットまで手がける川崎重工業のものづくり力と検体検査の世界大手シスメックスの知見を掛け合わせ、臨床現場を併せ持つ産業都市という地の利が生かされたためだ。
ヒノトリを手がけるメディカロイド(神戸市)の宗藤康治社長(55)は「医師への相談や実証試験がスピーディーにできたことが実用化を後押しした」と、連携と共創が生み出す力を振り返る。
関西に素地
現在、新たな医薬品を生み出すには、研究機関やスタートアップが持つ種を育て、各企業が得意分野を担当する「水平分業」が主流だ。その結果、世界の大手製薬による巨額買収が相次ぎ、世界各地で、集積と連携によって、実用化まで連続的に開発するエコシステムの構築が競われている。
関西には、バイオベンチャーなどが集まる大阪府北部の「彩都」、国立循環器病研究センターを中心に医療クラスターを目指す「健都」、京都大を中心としたiPS細胞研究の一大拠点など、特色あるクラスターが点在する。「世界の人々に貢献できる創薬の地となる素地がある」(日本総合研究所の藤山光雄関西経済研究センター所長)といえ、これらを結びつけ、育成していけるかが課題となる。