日本の選挙制度が「無効票が増えやすい」仕組みのままなのはなぜ?
自民と公明の与党が公示前から大幅に議席を減らし、過半数を割り込んだ10月の衆院選。自民党の議員の落選が伝えられる際によく聞かれたのが「比例復活で当選」「比例復活もできなかった」などのフレーズだ。 小選挙区比例代表制という制度の下で行われる衆議院選挙では、小選挙区と比例区との重複立候補が可能で、小選挙区で敗れても比例復活当選があり得る。だが、この仕組みがわかりにくい。 発売されたばかりの『ざっくりわかる 8コマ日本の政治』では、この本を監修した政治学者の中野晃一・上智大学国際教養学部教授が「選挙制度がわかりにくいのはなぜ?」というタイトルで、日本の選挙制度について解説している。本の発売を記念して、このコラムの全文を配信したい。 *** 日本の選挙制度は確かにわかりにくく、あまりにいろんな制度が組み合わさっているので「選挙制度のデパート」といわれることさえあります。 衆議院選挙は、小選挙区比例代表並立制。小選挙区と地域ブロック単位の比例区がありますが、比例区で小選挙区との重複立候補が可能で、小選挙区で負けても同じ政党の比例名簿同順位間では「惜敗率」(小選挙区で勝った候補の得票数に対する負けた候補の得票数の割合の高さ)で誰が「復活当選」できるか決まります。 参議院選挙も選挙区と比例区で1票ずつですが、選挙区は都道府県単位なので人口規模で1人区(つまり小選挙区)から6人区(複数区)まであり、それぞれ選挙の力学がまるで異なります。比例区は、衆議院と異なり全国区で、個人票が多い順に名簿順位が決まる非拘束名簿です。 これに加えて地方では、首長と議会が別の選挙で選ばれる二元代表制で、知事や市長などの首長選挙は勝者総取りの1人区、議会選挙は中選挙区もしくは大選挙区の複数区(一部に小選挙区もあり)です。 選挙制度は、既存の選挙制度で勝った議員たちが議会で決めるので、現職や与党が嫌がる改革は起きにくい特徴があります。勝っている人たちは自分たちに都合が悪くなる制度改革は好みませんから。また、都市部よりも自民党の強い農村部に議席が多く配分される「一票の格差」問題も放置され気味です。
本来、民主主義なのですから、選挙は主権者にとってユーザー・フレンドリーであるべきですが、日本ではいまだに候補者や党名を有権者に投票用紙に筆記させており、名前や政党、顔写真、番号などが並ぶリストに印をつけたりするのと比べて無効票が増えやすいしくみになっています。 「べからず法」といわれる公職選挙法で、極力自由であるべき選挙運動も選挙期間前は事前運動として禁止され、選挙期間中は公開討論会や戸別訪問が禁止されるなど細部にわたる規制があり、結局候補者が名前を連呼するだけで政策論争が深まらず、他国からは理解しがたい選挙になっています。 (文 中野晃一/まんが うかうか/生活・文化編集部)