『須藤玲子:NUNOの布づくり』水戸芸術館現代美術ギャラリー【青野尚子のアート散歩】
NUNOの布を作り出す人々の情熱。
手にとったときのことを想像してしまう、色も質感もさまざまな布。その布ができあがるまでには長い物語がある。 「須藤玲子:NUNOの布づくり」は布地の企画・デザイン・製作・販売までを一貫して手がけるテキスタイルデザインスタジオ「NUNO」とそのデザインディレクター、須藤玲子の活動を紹介するもの。各国の美術館にも収蔵されている独自の布の秘密を追う。 この個展では個性的な布がどのようにして生まれるのかが明らかにされる。まるで工場の中に迷い込んだかのようなインスタレーションで布づくりの現場を体感できるのだ。会場にはデザインの源泉やドローイング、サンプル、職人との試行錯誤を記録した資料も並ぶ。
展覧会のハイライトは大空間を泳ぐ「こいのぼり」だ。NUNOのオリジナルテキストを使ったこのインスタレーションはこれまでも展示されてきたが、今回の展覧会では水戸藩に伝わる染色技法「水戸黒」の再生をめざす職人とコラボレーションした特別なこいのぼりも出品される。藍で染めた布をさらにヤシャブシの実などを使って黒く染めたものだ。 青みがかった色合いが珍重されたが化学染料によって技術継承が途絶えてしまっていた。このほかにNUNOを支えてきた日本各地の工場にもスポットをあてる。ものづくりに関わる人々のプライドも感じることができる展覧会だ。
『須藤玲子:NUNOの布づくり』 2月17日(土)~5月6日(月・振休) ●水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城県水戸市五軒町1・6・8) TEL.029・227・8111 10時~18時 月曜休(祝日の場合は開館、翌火曜休) 入場料一般900円ほか この展覧会は2019年、香港のCHATで企画・開催され、その後ヨーロッパ各地と丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を巡回してきた。茨城県石岡市出身の須藤玲子にとってはゆかりの地での個展になる
青野尚子 さん あおの・なおこ アート・建築関係のライター 著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。