『僕のヒーローアカデミア』原作完結と劇場版『ユアネクスト』 強調される作品テーマとは
「次は君だ」の真意に重なる作品のメッセージ
・「次は君だ」が持つ本当の意味 ゴリーニが履き違えた、「次は君だ」の真意。それは「次は“君が手を差し伸べる番だ”」である。神野区で放たれたオールマイトのこの言葉は、ワン・フォー・オール(OFA)を継承したデクだけに向けられたものではない。“テレビの向こう側にいるすべての人に”向けられたものなのだ。 『ヒロアカ』は「君もヒーローになれる」という力強いオールマイトのセリフで始まったデクの物語でありながら、主人公以外のキャラクターたちも「自分もヒーロー(誰かに手を差し伸べられる人)になれる」と実感すること、その自覚を持って行動を移すようになるまでを描く。原作の第439話で家族からの虐待を受け、口を縫われて監禁されていた少年が外に出た時、幼かった死柄木(志村)を見捨てたおばあちゃんが、今度こそ「“おばあちゃんが来たからね”」と言って彼の手を取る。これこそオールマイトを筆頭にデクやお茶子らを通して紡がれてきた力なのだ。ヒーローであることは決して最強の存在になることではなく、安心を必要とする誰かの手を握ることなのである。 それを理解できなかったダークマイトを、劇場版で緑谷と爆豪、轟が徹底的に否定する。かつてオールマイトの背に憧れてヒーローを目指した次世代の“託された彼らが”、そんな敵の独善性に真っ向から立ち向かうクライマックスは、単なるチームアップ演出にとどまらずそれだけで完結した本作と通じて非常に意味深いのである。そして無個性になったアンナとジュリオといった「個性の有無」で関係性が成り立っていた彼らが、それがなくなっても共に、より自分らしく歩んでいくラストは原作でOFAを手放した緑谷とプロヒーローとなったA組メンバーの行き先を彷彿とさせる。10年の時を経て大円団を迎えた傑作だが、放送中のアニメも含め、今後も私たちの生活に寄り添い、歩んでくれる作品となるだろう。
ANAIS(アナイス)