引退した五輪銅メダリスト、立石諒が北島康介時代に喧嘩を売った意義
2012年のロンドン五輪競泳男子200m平泳ぎ決勝で北島康介と伝説のデッドヒートを演じ、銅メダルを獲得した立石諒(ミキハウス=27歳)が、名古屋市内の日本ガイシアリーナで16日まで開催されていた競泳日本選手権を最後に現役生活にピリオドを打った。 北島が100、200mの2種目を制した2004年のアテネ五輪に触発。憧れのヒーローの背中を追いかけるように一気に記録を伸ばしはじめ、「ポスト北島」の一番手になった立石の競技人生のハイライトは、やはりロンドン五輪で日本中を酔わせた魂の泳ぎとなるだろう。 100mで5位に終わった北島は、3大会連続の二冠獲得の夢を断たれていた。それだけに、残された200mには並々ならぬ意欲を燃やしてくる。日本時間の8月2日未明に行われた決勝。全体の5位で進んだ北島と7位の立石は、何かに導かれたかのように隣同士で泳ぐことになった。 「また隣のコースですね」 入場直前の招集所で、立石は7歳年上の王者にこう話しかけている。実は100m予選でも2人は隣同士で泳いでいた。すかさず北島も笑顔でこう返している。 「オレたちは切っても切れない仲なんだよ」 果たして、レースは北島が世界記録を上回るラップで先行し、後半に絶対の自信をもつ立石が追いかける展開となる。優勝したダニエル・ギュルタ(ハンガリー)、2位のマイケル・ジェーミソン(イギリス)が抜け出したラスト50mは、3位をめぐる北島と立石との神聖なるマッチレースと化した。 必死に逃げる北島。猛然と差を詰める立石。ほぼ同時に壁を叩いた結果は、わずか0秒06差で立石に軍配があがる。一回のまばたきにも満たない時間は、立石をして「爪の差で勝てた」とも言わしめた。 喜びを爆発させる立石に「よくやった。おめでとう」と声をかけた北島は、直後のテレビインタビューでこんな言葉を残している。 「メダルに届かなかったのは悔しいですけど、(立石)諒が取ってくれたから悔いはありません」 そして、北島の次にスタンバイしていた立石と固い握手を交わし、銅メダリストの右肩を左手でポンと叩き、さらに熱い抱擁シーンを夜明け前の日本列島へ届けた。これが何を意味するのか。その後の日本競泳界に訪れた大きな変化を見れば、世代交代への号砲が鳴らされた瞬間だととらえていい。 約1ヶ月半後の9月15日に行われた「ぎふ清流国体」の少年男子200m平泳ぎ決勝で、18歳の山口観弘(当時・志布志DC)が2分7秒01の世界新記録をマーク。ロンドン五輪決勝でギュルタが樹立した2分7秒28の世界記録を大きく更新して世界へ衝撃を与えた。