ゴルフGTIはボディで曲がる、メガーヌRSはリア・サスペンションで曲がる、ではシビック・タイプRは何で曲がるのか? ホットハッチ頂上決戦 山野哲也が判定を下す!
ゴルフGTIとシビック・タイプRには次もあってほしい!
2024年のエンジン・ホット100で日本車の4位につけたのがホンダ・シビック。シビックといえばやはり、FF車ニュル最速を記録したタイプRでしょう。そこで、世界の頂点を争ってきたルノー・メガーヌR.S.とホットハッチの元祖、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとともに箱根に連れ出して、レーシング・ドライバーの山野哲也選手と乗り比べてみた。モータージャーナリストの佐野弘宗がリポートする。 【写真28枚】シビック・タイプR、メガーヌRS、ゴルフGTI、ホットハッチ頂上決戦の様子を写真で見る ◆ニュル・アタックの最初はメガーヌRS 佐野 FF実用ハッチバックを高性能化した「ホットハッチ」の元祖は、1975年に発売されたフォルクスワーゲン・ゴルフGTIです。そして、ルノー・スポール(RS)が、スポーツカーの聖地といえる独ニュルブルクリンク北コースのタイムアタックを敢行したのが、2008年のメガーヌRSから。以降、各社のFFホットハッチによるニュルアタックが慣例化します。 そんな「FF最速」の称号争いにホンダが初参戦したのが、14年の先々代シビック・タイプRでした。その後も、ときにゴルフGTI(の限定車クラブスポーツ)も巻き込みながら、RSとタイプRによるニュルへのタイムアタック合戦が激化します。現在の市販FF車によるニュル最速タイムは、23年4月に最新のタイプRが出した7分44秒881。メガーヌRSは今回連れ出したウルティムを最後に生産が終了して、次期モデルの計画はありません。さらにいうと、欧州では日本以上に電動化が進んでいますから、これまでのようなカタチでのFF最速戦争は、すでに終わったのかもしれません。 山野 あらためて3台に乗ると、ゴルフがいいですね。すべての要素が手中におさまるように、コンパクトにつくられています。 佐野 スピードを追求したメガーヌRSとシビック・タイプRは専用のワイド・ボディで、全幅はなんと1.9m近い。対するGTIのサイズは基本的に普通のゴルフと同じです。 山野 GTIは実用性も高いのですが、すべての煮詰め方が半端ではない。GTIに乗ると、VWは世界中で愛されるクルマのつくり方を知っているんだと思わざるを得ません。大多数の人に愛されるためのサジ加減やバランスが絶妙です。 佐野 GTIはあくまでゴルフの範疇のクルマ。対するRSとタイプRは、メガーヌやシビックという本来の姿から見ると、“異形”の進化としかいいようがありません。 山野 RSとタイプRのねらいは、あくまでサーキットを速く走ることです。目的がちがえば、マシンのつくり方も変わってきます。自動車メーカーによる究極のチューニング・カーといえるのが、RSとタイプR。コーナリングのさせ方も三者三様ですね。 佐野 どういうことですか? ◆三者三様のコーナリング 山野 GTIは、いうなれば、モノコックボディと、トレッドやホイールベースというディメンションで曲がっています。対して、RSはリア・サスペンションで曲げています。4コントロールという四輪操舵の効果もありますが、それ以前にリアの剛性の高さが重要な働きをしています。 佐野 なんとなく分かります。 山野 クルマを真上から見たときの旋回軸が、前にあるとオーバーステア、後ろの場合はアンダーステア、真ん中ならニュートラルステアになるのが、クルマの基本です。メガーヌRSは旋回軸がクルマの真ん中にあるのですが、それをリア・サスペンションが助けています。 その最大のポイントは4コントロールですが、それにはリア・サスペンションの剛性が不可欠。剛性が不足したまま後輪をステアすると、動きに遅れが出てオツリを食らうような動きが出てしまいますが、RSにはそれがまったくありません。メガーヌRSは、コーナーでクリッピングポイントをすぎてから、ステアリングを早く戻せるFF車という点で世界ナンバーワンだと思います。 佐野 まさしく! では、シビック・タイプRはどうでしょう? 山野 いわばダンパーで曲がるクルマです。連続可変ダンパーは前後とも相当に煮詰めてある印象です。 佐野 タイプRはとにかくアシがよく動いて、吸いつくようにフラットな姿勢をキープしますね。タイプRはそんな可変ダンパーを、3世代にわたって使ってきました。 山野 ゴルフGTIに話を戻しますけど、とくにコンフォートやエコモードだと、縦方向には“これって本当にGTI?”と思うくらい優しいタッチで、ダイレクト感も薄い。でも、強めにブレーキングしたり、ステアリングを切ったりすると、即座にグリップの最大値まで持っていけます。その理由はコンパクトであることと、ボディ剛性が高いことです。極端にいうと、バネやダンパーなどのチューニングはあまり関係ありません。VWは、こういうクルマづくりを連綿と続けてきました。 佐野 ゴルフは今年50周年ですね。 山野 GTIはエンジンも頭がもっとも良さそうです。ピーク・パワーはいちばん低いですが、とにかく雑味がない。これも50年間ずっとブレずに煮詰めてきた、いい意味で熟年の味わいともいうべき完成度です。これと比較すると、タイプRとRSには少し雑味を感じるとともに、若い感じがします。GTIが熟年なら、タイプRは高校生、RSは大学生、といったところでしょうか(笑)。 佐野 GTIはタイプRやRSと少し立ち位置はちがいますね。ゴルフには4WDの“R”があって、GTIはゴルフ最速を目指す役目にはなく、あらゆる性能が寸止めされたバランス派です。対するタイプRとRSは、とにかく最速のFF車を目指していて、良くも悪くもそこが味となっている面はありそうですね。 ベース車自体の歴史を振り返っても、シビックも歴史そのものはゴルフ以上に長いですが、コンセプトやポジショニングは、これまでに何度かリセットされてきました。ルノーのCセグメントは、76年に出たゴルフ対抗馬の14が元祖で、11、19と来たけど、最初から国際派だったゴルフとはちがって、いかにもフランスの土着的なクルマでした。 山野 ゴルフには感服しますが、乗って純粋に楽しく気持ちいいのはどれかというと、少し話は変わります。 佐野 ほうほう。 山野 やはり個人的に一番楽しいのは、これってFFだったっけ……というハンドリングを持つメガーヌRSです。それに、RSはエンジン音も気持ちいい。ブーストがかかったときの音やシフトダウン時のパラパラ音……など、乗り手の気分を盛り上げる演出が本当に上手です。 佐野 RSといえば、リアが粘りすぎないハンドリングが身上です。 山野 4コントロールを備えた最後のメガーヌRSは、まさにその究極という感じがします。低速コーナーだけでなく、中高速コーナーでもリアの旋回が積極的に入ってきます。 ◆体育会系のタイプR 佐野 タイプRのアシさばきは、山野さんがいうようにダンパーが本当にいい仕事をしていて、そのフラット感と吸いつくような安定性には、VWやルノー以上に感銘を受けました。「世界一安定して速いFF」の走りは、ニュルなんてまるで無関係の私でも、ビンビンに感じ取れます。 山野さんはタイプRがいちばん若々しいといいますが、コンフォートモードでの素晴らしい乗り心地には、逆に大人っぽい印象すら受けます……なんていっている私も、山野さんより少しだけ若いですが、50代半ばの中高年です(笑)。 山野 タイプRは、とにかく速く走るべくジムに通い詰めて、とことん走り込んで、ダンパーという筋肉、そして肺活量=エンジンを徹底的に鍛えた感じが若々しいんです。 佐野 なるほど、タイプRは体育会系というか、部活っぽい。タイプRは項目別でのトップ科目が多くても、ゴルフのボディやディメンション、メガーヌのリア旋回…… といった“極意”めいた味わいには、まだ達していないのかもしれません。 山野 エンジン・パワーの本当のピークが訪れる回転域も、ゴルフが一番低い。トルクの絶対値は小さくても、走り出してすぐに力を出します。だから誰にも扱いやすい。その次に大人っぽいのがRSで、体感的には3000rpm台の後半でフルブーストがかかる感じです。最後のタイプRの本領は4000rpm台後半というか、本格的に力を出すのは5000rpm~7000rpmです。タイプRは全速力で走らせてこそ、いちばんの気持ち良さが出ますね。 佐野 私はこれまで、FFのホットハッチをずっと所有してきました。性根がアマノジャクなので、実用品としての効率を求めたクルマを、あえて速く走らせる矛盾めいたところに、ロマンを感じます。 山野 私もその思想は素晴らしいと思いますよ。確かに理屈としては、タイヤの仕事を操舵と駆動に分けた方がバランスがいいとされています。ただ、フロント・タイヤに負担が集中するFFを速く気持ちよく走らせようとすると、じつは重要となるのがリア・タイヤなんです。そこに目をつけたのがルノーの4コントロール。そういう学者肌のところも、RSは大学生っぽさを感じさせます。 佐野 先代から現行のタイプRの開発責任者を務めた柿沼さんも、似たようなことをおっしゃっていました。タイプRはそのために、優秀な可変ダンパーだけでなく、マルチリンクという凝ったリア・サスペンションと大きなリアスポイラーでリアグリップを確保しているそうです。 山野 老獪なVW、研究熱心なルノーに対して、ホンダは体育会系。こうして3台を比べると、タイプRの真骨頂はこれからでしょう。今のままブレずに熟成していけば、さらに深い味わいが出てくると思います。 佐野 ホットハッチ道はまだまだ続くということですかね? メガーヌRSは終わっちゃいますけど、ゴルフGTIとシビック・タイプRには次もあってほしい! 語る人=山野哲也、佐野弘宗(まとめも) 写真=郡 大二郎 ■ホンダ・シビック・タイプR 駆動方式 エンジン・フロント横置き前輪駆動 全長×全幅×全高 4595×1890×1405mm ホイールベース 2735mm 車両重量 1430kg トレッド(前/後) 1625/1615mm エンジン型式 水冷直列4気筒DOHCターボ 排気量 1995cc 最高出力 330ps/6500rpm 最大トルク 420Nm/2600-4000rpm トランスミッション 6段MT サスペンション(前) マクファーソンストラット/コイル サスペンション(後) マルチリンク/コイル ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク タイヤサイズ(前後) 265/30R19 車両本体価格(税込) 499万7300円 ■ルノー・メガーヌR.S.ウルティムEDC 駆動方式 エンジン・フロント横置き前輪駆動 全長×全幅×全高 4410×1875×1465mm ホイールベース 2670mm 車両重量 1470kg トレッド(前/後) 1620/1600mm エンジン型式 水冷直列4気筒DOHCターボ 排気量 1798cc 最高出力 300ps/6000rpm 最大トルク 420Nm/3200rpm トランスミッション 6段ツイン・クラッチ式自動MT サスペンション(前) マクファーソンストラット/コイル サスペンション(後) トーションビーム/コイル ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク タイヤサイズ(前後) 245/35R19 車両本体価格(税込) 659万円 ■フォルクスワーゲン・ゴルフGTI 駆動方式 エンジン・フロント横置き前輪駆動 全長×全幅×全高 4295×1790×1465mm ホイールベース 2620mm 車両重量 1430kg トレッド(前/後) 1535mm エンジン型式 水冷直列4気筒DOHCターボ 排気量 1984cc 最高出力 245ps/5000-6500rpm 最大トルク 370Nm/1600-4300rpm トランスミッション 7段ツイン・クラッチ式自動MT サスペンション(前) マクファーソンストラット/コイル サスペンション(後) マルチリンク/コイル ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク(前後) タイヤサイズ(前後) 235/35R19 車両本体価格(税込) 525万円 (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部
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