『あのコはだぁれ?』のサプライズヒット 理由は「公然の秘密」が口コミで広がったこと?
8月第2週の動員ランキングは、前回予測した通り前週2位に初登場した『インサイド・ヘッド2』が、前週1位の『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』に大きく差をつけ、2週目にしてトップにたった。週末3日間の動員は39万1000人、興収は5億2200万円。この成績は前週との興収比で97%とほぼ横並び。お盆休みも好調が続いているので、もしかしたら今後、ロングヒット作品となる条件の一つである「前週超え」もあり得るかもしれない(今週末は、関東地方に大きな台風が接近する見込みなので難しいかもしれないが)。一方、『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』の週末3日間の動員は23万2000人、興収は3億4600万円。前週との興収比は39%と、完全に初動型の興行となった。 【写真】『あのコはだぁれ?』恐怖の場面カット(多数あり) その『インサイド・ヘッド2』と『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』のあいだに割って入ったのは、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ31作目の『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』。オープニング3日間の動員は36万5000人、興収は4億5500万円。祝日を含む公開4日間の動員は51万人、興収は6億3600万円。これはシリーズ最高興収24.7億円を記録した前作『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』の初動を上回るペースで、ここにきて長年のシリーズのファンの維持だけでなく、次世代の子供たちの観客の開拓にも成功している。 今週注目したいのは、週末のランキングではトップ10ギリギリのところにいるものの、公開4週目にしてソーシャルメディアや口コミで評判が広がり続けていて、ティーン層を中心とする客足が落ちていない『あのコはだぁれ?』。8月13日(火)時点での公式の発表によると、既に動員70万人を突破していて、興収8.2億円を記録している。同じ松竹配給、清水崇監督作品の前作『ミンナのウタ』の興収を公開2週目にして突破して、興収10億円も射程内に収めている。 ここで『ミンナのウタ』を「前作」としたのは他でもない、実はこの作品、夏休み中の高校を舞台にした学園ホラーという点で『ミンナのウタ』の物語設定とは異なるものの、実は『ミンナのウタ』から重要なキャラクターを引き継いだ作品となっている。あえて「続編」を謳わない事実上の「続編」という手法では、最近ではM・ナイト・シャマランの『アンブレイカブル』(2000年)を受けての『スプリット』(2017年)、『ミスター・ガラス』(2019年)という成功例があるものの、日本映画ではかなり珍しいチャレンジ。事実上の「続編」であるということは、口コミで広がることは放置しているものの(というかコントロールのしようがない)、実は宣伝ではNGワードになっているのだが、それも含めて企画の勝利と言っていいだろう。 春の『変な家』の大ヒットに続いて、夏の『あのコはだぁれ?』のスマッシュヒット。同時代の新奇なホラー映画がティーン層の観客にしっかり浸透するようになったのは、ホラー映画ファンとしては喜ばしいことなのだが、だからといってすべてのホラー映画にその法則が当てはまるわけではない。いよいよヒットの傾向が読みにくくなってきた。
宇野維正