【甲子園熱戦レポート│5日目】「何球になっても代えるつもりはなかった」は許すべきではない。球数制限下の現代で求められる高校野球指導者の資質<SLUGGER>
かつて、鳴門も1人の投手で戦うことが多かった。特に13年夏は、3回戦の常葉菊川戦で17対1と大量リードしているにもかかわらず、森脇稔監督は板東湧悟(ソフトバンク)に完投させている。しかし、準々決勝でその板東が疲労のためにベストピッチできないでいると、14~16年は方針を変えていた。 森脇監督は当時、甲子園でこう話している。 「以前に甲子園でエースを投げさせすぎだと言われまして、方針を改めました。少しずつですけど、他の投手も起用できるようにと考えるようになりました」 複数投手制を敷いた14~16年のうち1人が、現在日本ハムで活躍する出場した河野竜生だ。彼は今季オールスターに出場するなど元気にプレーしているが、阿南光から中日に入団した森山は左肩を故障。現在は育成契約に降格してもがいている現実もある。 鳴門渦潮のエース岡田は、将来性を考えれば打者が望ましいだろう。となれば森山のようなことはならないかもしれないが、物事の根本はそういうことではない。どんな投手であっても、いかにして故障から守る環境を作っていくことが我々大人ができることではないだろうか。 「1週間500球」の球数制限導入以降は、指導者の良識を感じることは多かった。制度が決定した当初は規則が緩すぎると思ったものだが、高校野球の指導者たちは制度変更の意味を十分理解して、チーム作りに向き合ってきた。 徳島県の苦しい事情は理解できるとはいえ、こういう起用が続けば、また新たな制限が設けられることにつながるだろう。 森監督に尋ねた。1試合の球数制限が設けたらどうするのか。 「それはそれで当然対応せなあかんと思いますし、2番手・3番手を育成しますけど、今のうちの状況で、途中で岡田を替えてまで勝てるピッチャーもいない。そうなると、公立校ではしんどいんちゃうかなと思います」 徳島は、全国では珍しい“私学劣勢地区”である。これまで一度も私立高校が甲子園に出場したことがなく、公立どころとして知られる。伝統校の徳島商業や池田などの他、鳴門渦潮など有力な公立がしのぎを削っている。 だからこそ「負けられない」という気持ちが働くのかもしれないが、今の時代に185球を投げて「代える気はなかった」と言ってしまうのは時代錯誤もいいところだ。子供を守りながら、いかに勝ちに導くか。それが今の高校野球の指導者に求められた資質であると言うことを誰しもが意識すべきだろう。 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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