「転売ヤー失せろ!」は世界共通の標語なのか? 「持てる者」が「持たざる者」の購入チャンスを奪う「転売」の各国事情
日本国内では目の敵にされている転売。欲しい人に欲しい商品が届かない悪弊を生んでいる。その構造を丹念に取材して解きほぐしたのが、『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)だ。著者の奥窪優木さんに、各国で異なる「転売のカラクリ」を聞いた。 【画像】かつては1500円程度ながら、現在は中国で3万円で取引されることもある「モノ」
欲しい人に欲しいものが届かない
――「転売ヤー」を取材したきっかけはなんだったんですか? 奥窪優木さん(以下同) もともと中国を取材していたので、中国人が手掛けるビジネスの1つとして注目したのが最初です。 コロナ禍に品薄となったマスクやオムツの転売が流行った頃、ちょうど裏社会系の取材を多く手掛けていたのもあって、日本国内でも「転売」と騒がれているのをよく聞くようになりました。 転売は結局、消費者にもメーカーにも大迷惑です。欲しい人に欲しいものが届かないという悪弊がありますから。そこで関心を持って、くわしく調べてみようと思いました。 ――日本ではSNSでの「転売ヤー死ね」の言葉通り、敵視された存在ですが、諸外国ではどうですか? 残念ながら、その感覚は全くありません。中国人転売ヤーは自分たちのことを「バイヤー」と名乗って堂々としています。アメリカなんかでも「リセラー」と呼ばれる、ごく当たり前の商売となっています。 自分の体験としても、アメリカ人の友人に「今度、転売ヤーの本を出すんだ」と言ったら「そんな当たり前のことが本になるのか? 絶対に売れないだろう!」と驚かれました。 ――そんな事情があったんですね。日本人のような「転売ヤー=悪」だと思う感覚は、むしろめずらしいということですか? そうですね。日本で転売ヤーが嫌悪感を与えるのは、同じ商品でも人によって買う価格が変わったり、金がある人のところにモノが行ったりすることが公平ではないという考え方が浸透しているからだと思います。
転売ヤーにとって、日本は商材の宝庫?
――中国の取材をしていたのがきっかけということで、この本には中国の事例が多く取り上げられてますね。 それもありますが、中国人転売ヤーにとって、日本には大きなビジネスチャンスがあると考えているようです。 ――ビジネスチャンスといいますと……。 中国でお金を持っていても日本のようには購買意欲をそそられるような商品が少なく、意外とお金の使い道がないんです。入手経路がなく、手に入れたくても手に入れられないものも多い。 だから、めずらしい・品質がいい・ラインナップ豊富な日本の商品を、何倍の値段でも買い集めたいという人が多いわけです。 さらに、人口が多いから市場が大きいですよね。日本では商売が成立しないニッチな趣味であっても母数の人口が桁違いなので、趣味人口が日本よりずっと多くなります。 例えば、最近は中国でもレトロ趣味が流行っていて、カセットテープなんかは値段が上がっています。かつて1500円程度で売られていたマクセルの最高級モデルなんか、1本が3万円以上で取引されることもあります。 つまり、中国人から見たら、日本は転売商材の宝庫なわけです。しかも、日本の小売店は実勢価格をつけずに定価で売るのが普通なので買い付けも容易です。それが日本に中国人の転売ヤーが多い理由です。