ヤンマーデザインの新ビジョン「YANMAR PRODUCT VISION」発表 コンセプトトラクター「YPV-L」初公開
ヤンマーホールディングスは11月7日、ヤンマーデザイン(YANMAR DESIGN)の新たなビジョンとして「YANMAR PRODUCT VISION(YPV)」を発表するとともに、ヤンマーが目指す「本質デザイン」の考え方を反映したコンセプトトラクター「YPV-L」などを初公開した。コンセプトモデルなどは、11月8日~15日、東京・八重洲のYANMAR TOKYO 地下1階の「HANASAKA SQUARE」において開催する「YANMAR DESIGN みらいのけしき展」で一般公開する。 【画像】新たに打ち出した「YANMAR PRODUCT VISION(YPV)」 新ビジョン「YPV」について、ヤンマーホールディングス 取締役CBO (チーフブランディングオフィサー)の長屋明浩氏は、「YPVは、ヤンマーの“ありたき姿”を視覚化したビジョンであり、それをもとに定義した新しい意匠や設計思想などを体系化して整備し、プラットフォーム化した。本質デザインの追求を、有言実行するためのひな型をつくり、製品やサービスを統括していくことになる。効率的で、顧客価値を最大化する製品開発を実現する」と狙いを語った。 YPVから生まれたデザイン要素と、これまでヤンマーが培ってきたデザイン要素と経験を融合してプラットフォームを構築し、共通化したデザイン思想を、農機や建機、ボートなどの製品のほか、サービスなどを含めた同社プロダクトに順次適用する。これにより、部材や設計の共通化に加えて、開発工数の効率化やコストの削減につなげるほか、未来の作業を見据えた新たなヒューマンマシンインタフェースによる直感的な操作性の実現や、居住性の向上なども目指す。 初めて公開したコンセプトモデルは、YPVの考え方に則ったもので、ヤンマーの事業領域であるLAND(大地)、SEA(海)、CITY(都市)にフォーカスした3つのプロダクトで構成している。いずれも、2035年の利用を想定したものであるが、直接製品化する予定はないという。 コンセプト農機の「YPV-L(LAND)」は、従来のキャビン構造を見直し、農業機械と建設機械の部品を共通化。運転席には大型ディスプレイを設置し、直観的な操作が可能になる。複雑な農作業を集中管理したり、他の自動運転農機などをコントロールする司令塔としての役割も果たしたりする。さらに自動運転化に向けたキャビンレス仕様を想定。運転席にはハンドルがなく、レバーで操作。タイヤにはエアレスタイヤを採用する。作業場所や作業者のニーズにあわせたカスタマイズも可能にしている。 ヤンマーホールディングス デザイン部の土屋陽太郎部長は、「自動運転技術などの活用により、農作業は劇的に変化する。YPV-Lは、働くための新たな相棒としてデザインしたものであり、機能的な剛健さと、ユーザーにやさしい柔和な表現を融合させている。前方には貫通した空洞があり、冷却機構のレイアウト変更が可能となっている。また、エンジンだけでなく、電動化にも対応するなど、様々なパワーユニットが搭載できる。キャビンは外骨格フレーム方式を採用し、視界の良さと、顧客にあわせたカスタマイズの自由度を実現。キャビンを前方に移動させたことで、リアタイアとキャビンとの干渉を緩和し、高い居住性が確保できる。リアトレッドの自由度も高まり、様々な作物の畝にも柔軟に対応できる」と述べた。 無人仕様と有人仕様に同じ車体を流用でき、自動運転の際には、自動化や電動化に必要な機器をキャビンスペースに配置することになるという。 コンセプト建機の「YPV-C(CITY)」は、ヤンマーが得意とする後方超小旋回による作業性を確保しながら、機械質量は約3500kgを実現。今後、増加すると考えられる都市部でのリノベーションや屋内作業を見据えた設計になっているという。電動化を基本としており、課題となるバッテリの持続性と給電については、自走式の小型バッテリ車が必要なときに接続され、自動的に給電するという仕組みを採用する。 また、災害時には、現場への迅速な移動が行なえるように、建機で一般的なクローラではなく、走行に最適なホイールを採用している。「災害時の初動救助活動での利用を想定している。その際に、クローラでは公道走行には制限があること、エアレスタイヤにより悪路の走行が可能になり、作業時の安定性が可能になるメリットがあることからホイールを採用した」という。 YPV-Lのキャビンと共通化しており、開発効率の向上とともに、作業内容や用途に応じた細かいカスタマイズが可能になる。さらに、共通インターフェースの採用によって、農機と建機で同じ操作性を実現するという。 「YPV-S(SEA)」は、フォイリングセイルボートという提案により、新たなマリンライフの実現を支援。これまで蓄積してきた舶用技術やノウハウをベースに、揚力で船体を浮かび上がらせるモノハルフォイリングシステムを採用。風力を活用した自動制御セイリングを組み合わせて、自然力を最大限に活用して、海上を飛ぶように滑走することができる。補助電力には電動モーターを採用しているが、環境にも優しい設計が特徴だとしている。 「完全自動制御によってコントロールする帆(セイル)を搭載しており、特別な操船技術がなくても楽しい時間を体験できる。コンセプトは、Quiet Excitement。動力から船上での過ごし方までデザインしており、広い洋上で、海と空と自分だけの時間を、心ゆくまで楽しめることができる、新たなカテゴリーの提案になる」としている。 さらに、これらの3つのコンセプトモデルのベースになる考え方として、「YPV-H(HUMAN)」を示した。3つのコンセプトモデルとの連動という点では、共通インターフェースの採用をあげる一方で、より幅広い視点でYPV-Hを位置付けていることを強調した。 たとえば、ヤンマーでは、創業者の理念をもとにした「HANASAKA」を打ち出し、「人を、未来を咲かせよう」というメッセージとともに、「人の可能性を信じる、人の挑戦を後押しする文化」を築き、次世代育成や文化の醸成にも取り組んでいる。 長屋CBOは、「YPV-HのHは、HANASAKAのHでもある。花は咲くのではなく、咲かせるものという考え方をもとにしたHANASAKAは、ヤンマーのすべての活動の基盤であり、ブランディングやデザインにおいても中心的なテーマである」と述べた。 YPV-Hの取り組みとして紹介したのが、2024年10月からグローバルに向けて公開した楽曲「Find A Way」である。ギタリストであるMIYAVI氏が、1959年からスタートした「ヤン坊、マー坊天気予報」のテーマ曲をインスパイアして制作した楽曲で、「MIYAVI氏は、Jリーグクラブのセレッソ大阪(前身はヤンマーディーゼルサッカー部)のジュニアユースに所属し、プロサッカー選手を目指していたが、怪我によってその夢を断念。ギターに出会い、音楽家の道に挑戦し、世界的ギタリストになった。そうした姿勢は、HANASAKAの姿勢を体現している。趣旨に賛同してもらい次世代への応援ソングを作ってもらった。一人ひとりが、自身の未知なる可能性を見つけ、挑戦するまでの道のりを応援したい、という想いが込められている」(長屋CBO)と述べた。 一方、YPV-Lなどを展示する「YANMAR DESIGN みらいのけしき展」は、未来を描くヤンマーのデザイン思想を紹介し、ヤンマーが目指す未来への共感の輪を広げる場にするという狙いから開催するという。同社では、「創業112年の歴史の中で、常に人に寄り添い、課題に挑戦し続けてきたヤンマーが描く『みらいのけしき』を体感してもらえる」と位置付けている。 なお、「YANMAR DESIGN みらいのけしき展」は、2024年11月8日~14日までが11時~19時まで、15日は17時までとなっている。入場は無料で、事前予約不要で自由に入場できる。 ヤンマーは、1912年に大阪で創業。1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小型実用化に成功。産業機械メーカーとして、大地、海、都市を対象に、エンジンなどのパワートレーンを軸に、アグリ、建機、マリン、エネルギーシステム、コンポーネントなどの事業をグローバルに展開している。近年では、食をテーマにした事業を展開し、食糧生産やレストラン運営を進めている。 ブランドステートメントに「A SUSTAINABLE FUTURE」を掲げ、「省エネルギーな暮らしを実現する社会」「安心して仕事・生活ができる社会」「食の恵みを安心して享受できる社会」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」の4つの社会の実現を目指し、テクノロジーで新しい豊かさを実現するす活動を進めているという。 ヤンマーが本格的にブランディングやデザインに取り組むようになったのは、創業100周年を迎えた2012年であり、顧客価値を最大化したプレミアムブランドを目指し、社外の著名クリエイターの協力を得て、ブランドリニューアルと認知向上に取り組んだ。 これをYANMAR DESIGN 1.0とすれば、2015年にはヤンマー初となるインハウスデザイン組織を設置。ヤンマーらしさを視覚的に表現する活動を進めてきた。2022年には、ブランド部を設置し、対外的なコミュニケーション全般に渡るクリエイティブも手掛けている。 また、同社では、ヤンマーらしいデザインを追求するために、DESIGN PHILOSOPHYとして、「本質デザイン」を打ち出し、本来の機能的な価値や意味を重視する活動を徹底。形や様式にとらわれず、物事の本質に迫るデザインを真摯に追求し、極めることを目指している。さらに、DESIGN DIRECTIONとして、「柔和剛健」(Gentleness and Toughness)を掲げ、創業者である山岡孫吉氏の精神を受け継ぎ、柔らかく人々に寄り添いながらも、課題に対しては力強く立ち向かうデザインを目指しているという。 長屋CBOは、「社内だけでなく、社外や一般生活者を含むすべての人々をステークホルダーとして巻き込み、ともに歩むことが重要であると考えている。これを、INCLUSIVE BRANDINGインクルーシブブランディング)と呼んでいる。ヤンマーによる造語であり、ブランディングにおいても、デザインにおいても、グループ会社やパートナー企業と協力し、一般ユーザーも巻き込みながら、共感と信頼を作り出す活動に位置付けている。これにより、企業利益を超えた社会価値を上見出し、持続可能で豊かに未来に向けた取り組みを推進していく」と語った。
Car Watch,大河原克行