トランプがハリスとの2回目のテレビ討論会を拒否する「本当の理由」
利用されたトランプの心理
米公共ラジオは、8月8日にトランプが南部フロリダ州の私邸マー・ア・ラゴで行った64分の記者会見の中に、少なくとも162の嘘が含まれていたと報道した。公共ラジオは、トランプの162の嘘のリストを作成し、一つひとつの嘘に関して理由を加えて発表した。トランプは1分間に2個以上の嘘をついたことになる。 今回のテレビ討論会で、最大のトランプの嘘として討論会後も波紋を呼んでいるのが、中西部オハイオ州スプリングフィールドで、ハイチからの移民がペット用の犬と猫を食べているというトランプの虚偽発言である。 テレビ討論会を主催したABCニュースの司会者の1人、デービッド・ミュラー氏は「当局によれば、そのような報告はない」と指摘し、トランプの発言を訂正した。トランプと副大統領候補のJ.D.バンス上院議員(オハイオ州)の支持者であるマイク・ドゥワインオハイオ州知事(共和党)でさえ、スプリングフィールドに住むハイチからの移民が、住民の犬や猫を捕まえて食べているという報告はなく、「スプリングフィールドの移民は合法である」と、9月15日(現地時間)放送のABCニュースとのインタビューで答えた。 では、なぜトランプは虚偽発言をしたのか。ハリスは討論会で司会者から移民問題について質問されたとき、手短に回答した後、突然、トランプ集会が退屈で早く帰る支持者がいると語った。自身の選挙集会を貶され、不快感を顕わにしたトランプは、討論が進む過程で自制心を失い、集会について反論をしたものの、その後にハイチからの移民に関する根拠のない発言をしてしまったのだ。 トランプは、ハリスの周到な仕掛けにはまってしまったのだ。討論会の前から、経済と移民問題はハリスの弱点として、双方の陣営や有権者が見ていたのだが、ハリス陣営は経済よりも移民問題でトランプの失言を引き出せると判断したとみてよい。移民問題は、経済よりも人々が被害意識を刺激されやすい争点であるからだ。 筆者は何回もトランプ集会に足を運んできたが、トランプは自分の選挙集会に誇りを持ち、完璧なものだと思っている。ハリスは、その心理をうまく利用した。 トランプは、ハリスと2回目の討論会を行った場合、1回目と同様に、ギッシュ・ギャロップは通用せず、再び罠を仕掛けられる公算が大きいとみているのだろう。トランプは、それを警戒しているのだ。 さらに、討論会でトランプは人種やジェンダーを使ってハリスを攻撃すれば、自ら地雷を踏むことなり、選挙の勝敗の鍵を握る無党派層や郊外に住む女性および、今トランプが切り崩しを図っている黒人票を逃すことになる。トランプにとって、「黒人・女性・検察官」のハリスは、実に厄介な相手なのだ。一方、ハリスはトランプを討論で「勝てる相手」であると確信したに違いない。