トランプがハリスとの2回目のテレビ討論会を拒否する「本当の理由」
トランプがスピンルームへ直行――その訳は
トランプは討論会が終了すると、ハリスや2人の司会者と握手もせずに、即座に会場を去り、スピンルームへ向かった。通常であれば、大統領候補者同士が握手をして、司会者とも握手をし、言葉を交わす。討論の最中、ハリスの顔を見ようとせず、終始怒った表情を見せていたトランプは、終了後も大統領らしくない振る舞いをした。 では、なぜトランプはスピンルームに直行したのか。スピンとは、こまなどが高速で回転した状態を指す。マスコミに対して政治的情報操作を行いコントロールする部屋をスピンルームと呼んでいる。 テレビ討論会の候補者が、自らスピンルームに足を運び、情報操作を行うのは異例だ。トランプはそこで、「勝者は自分だ」と述べ、自分の政策の優位性を強調した。彼にはそうする必要があったのだ。 テレビ討論会における自分の出来が悪かったと認識したからだろう。6月27日にバイデン大統領とテレビ討論会を行った際は、討論会終了後、トランプはスピンルームには向かわなかった。自身の勝利が明らかであったからだ。
トランプの苦手意識
テレビ討論会が終了すると、早速ハリスはトランプとの2回目の討論会を提案した。これに対して討論に敗れたトランプは、ハリスの提案を逆手にとって、彼女は討論会の敗者なので提案を行ってきたと議論し、提案を拒否した。 しかし、世論調査結果に基づけば、敗者はトランプであり、全体の支持率でハリスを追いかけるトランプこそが、討論会を必要としているはずだ。 ちなみに、討論会後に発表した米ABCニュースとイプソスの調査では、全体の支持率でハリス52%、トランプ46%で、ハリスがトランプを6ポイント上回り、統計の誤差以上の差をつけた。 今回のテレビ討論会で、トランプはハリスに対して苦手意識を持った可能性がある。少なくとも、ジョー・バイデン大統領とは異なり、元検察官のハリスは「手強い相手」であるという印象を強く持ったに違いない。トランプの討論の技法が、嘘を見抜くハリスには全く通用しないからだ。 トランプは討論の際、「ギッシュ・ギャロップ(Gish Gallop)」という技法を用いると言われている。ギッシュは人物の名前、ギャロップは「馬を最大速度で走らせる」馬術用語で、ギッシュ・ギャロップとは、矢継ぎ早に数多くの論点を入れて、相手を圧倒する技法である。 その際、論点の質よりも量を重視するために、嘘や誇張を混在させて討論をする。相手は短時間に全ての論点や嘘に対応できないので、視聴者は相手に討論の能力がないと判断する傾向がある。 ハリスが今回のテレビ討論会の準備に向けて採用したのは、コミュニケーションの戦略家フィリップ・ライネス氏である。彼は、2016年米大統領選挙でトランプとテレビ討論会を行ったヒラリー・クリントン元国務長官にアドバイスを与え、クリントン陣営のトランプ役を演じた。また、ワシントンの弁護士で討論の専門家であるカレン・ダン氏もチームに加えた。 東部ペンシルベニア州ピッツバーグのホテルで行った模擬討論の「合宿」では、ハリスはトランプの討論の技法の対策を練り、特訓に特訓を重ねた。本番の討論会で、ハリスはトランプの発言中、何度もトランプの方に体を向けて、「うそだ」「うそをついている」「真実ではない」と、マイクが「オン」か「オフ」の状態に関わらず、繰り返し反論を続けた。