判決後の「肉声」と支え続けた91歳実姉の胸中とは…袴田巌さんは「58年越しの無罪」に何を想うのか
「ついに完全に全部勝った」
「被告人は無罪」 力強い裁判長の声が、法廷内に響き渡る。その瞬間、傍聴席から「よしっ」と小さな歓声が聞こえた――。 【画像】逮捕から50年が経過し、浜松の街を歩く袴田巌さん 9月26日午後2時2分、強盗殺人などの罪で逮捕・起訴された確定死刑囚・袴田巌(いわお)さん(88)の再審が静岡地方裁判所で行われ、無罪判決が言い渡された。 袴田さんは’66年、自身が勤務していた味噌製造会社の専務の一家4人を惨殺したとして逮捕された。ほぼ一貫して無罪を主張していたが、’80年に死刑が確定した。判決を不服とした弁護団が裁判のやり直しを請求し、’14年に静岡地裁は再審開始と釈放を決定。一度は東京高裁によって取り消されたものの、最高裁が差し戻して’23年に裁判のやり直しが認められた。今回の判決で、死刑判決の重要証拠は、警察と検察が連携して捏造したものと認定された。 判決の翌日、袴田さんを長年にわたって支え続けた姉のひで子さん(91)は、無罪を一面トップで伝える朝刊各紙をテーブルに並べて言った。 「ほら巌、無罪判決が出たんだよ。3つの証拠捏造を認定って書いてあるでしょ。裁判所がそう認めてくれたんだよ」 「…………」 袴田さんは熱心に紙面を読んでいたが、終始無言だった。長い歳月に思いを馳せ、胸中で慟哭していたのか。代わりに、ひで子さんが判決をこう振り返った。 「無罪の一言が神々しく聞こえました。その後の言葉は、あまり覚えていないんですよ(笑)」 判決から3日後の29日、静岡市で行われた無罪報告会に袴田さんは車いすに乗って出席。初めて公の場で発言をした。 「(無罪判決は)待ちきれない言葉であります。無罪勝利が完全に実りました。ついに完全に全部勝った。きょうはめでたく、皆さんの前に出てきた」 数多くの支援者を前に、袴田さんは58年ぶりの自由を噛み締めていた。 『FRIDAY』2024年10月18・25日合併号より
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