逃げることすらできなくなる?DV被害者語る共同親権認めた民法改正への不安 あいまいな条文や収入合算による経済問題も
「急迫の事情」があれば単独親権にというが…
法案では、「急迫(きゅうはく)の事情」がある場合は単独で親権行使できることになっている。では「急迫の事情」とは一体どういうケースなのか。 辞書によると「急迫=物事が差し迫った状態になること」とある。 DVや虐待は命の危険をともなうため「急迫」だと思うが、その範囲を「誰が」「どういう基準で」判断するのか不明だ。 DVは、ただでさえ密室で起きているため証拠が残りにくい。約5割の人が誰にも相談していないことも調査結果でわかっている。 それ以外にも、「監護及び教育に関する日常の行為」については、一方の親による単独親権の行使を認める例外規定を設けるとしているが取材したBさんは、「何がそれにあたるのかはっきりしない」ことに不安を感じているという。 保育園の入園手続きは? 修学旅行のためのパスポート取得は? 予防接種は? 引っ越しは? 意見が対立し(あるいは嫌がらせで)サインしないケースや、相手に話すこと自体苦痛だったり、署名をもらうことの見返りに何かを要求されることが増えるのではないかと指摘する。 何より、一番影響が及ぶのは子どもだ。改めて「子の利益」がどう守られるのかが心配だ。 「子どもは本来両親のもとで育つべき」 一見正しいと思われるこのような主張も、親の不仲、DV・虐待下では決してそうではないことが分かった。
経済的な不安も
Bさんは所得の問題にも言及した。ひとり親家庭支援策、例えば子の養育に関連する税制、社会保障制度などがどうなるのか心配だという。文科省の答弁では、「共同親権を選択した場合には、親権者が2人となることから、親権者2人分の所得で判定を行う」そうだ。 生活拠点も別、養育費などももらっていなくても、合算された収入を基準に制度の適用がなされるとしたら、その影響は大きい。 言い出すときりがないが、この法改正は「家族のあり方」に関するもので、その影響はかなり広範囲に及ぶが、国会審議でそれらが十分に議論されたとは到底思えない。 法制審議会の家族法制の見直しに関する要綱案にはこのような記載がある。 「親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。」 パブリックコメントには、国民からの反対意見も数多く寄せられ、法案に反対するデジタル署名は5月20日時点で24万人を超えている。 その中には、DV被害者という「見えない弱者」の声が数多く含まれている。この「声なき声」を置き去りにしてはならない。 このような状況に配慮し、真に子どもたちの利益にかなうものになるような制度設計をしてもらいたい。 弱い立場にいる人がさらに追い詰められるような事態にならないよう、切に願う。
木幡美子