逃げることすらできなくなる?DV被害者語る共同親権認めた民法改正への不安 あいまいな条文や収入合算による経済問題も
表に出づらいDVの実態
さて、冒頭で共同親権導入が「命を脅かす」と書いた理由は、DV=ドメスティック・バイオレンスの問題だ。 日本では結婚したことのある人の「4人に1人」が配偶者からDVを受けたことがあると回答している。[令和6年3月内閣府男女間における暴力に関する調査報告] また、警察庁によるとDV事案の相談等件数は増加傾向で、令和5年は8万8619件(前年比4123件増加)と2001年のDV防止法施行後最多だった。 「そんなに暴力が振るわれているの?」と驚く人もいるかもしれないが、バイオレンスというと、殴る、蹴る、物を投げつけるなどの身体的暴行を想像するが、それだけではない。 モラハラなど精神的攻撃や、生活費を渡さない、クレジットカードを取り上げるなど経済的な抑圧もドメスティック・バイオレンスにあたるのだ。 「だれのおかげで生活できていると思っているんだ!」 そんな人格を否定するような暴言だったり、人前でバカにするようなことを言ったり、「今、どこに誰といるの?」など、パートナーを束縛し、管理・支配下に置くような行動もDVに含まれる。 数年前、別居・離婚して今は子ども2人と暮らすAさんは、長年、元夫からDVを受けていたという。育児に協力せず、休日も一人で出かけてしまう。何か言うと怒鳴ったり家をでてしまって話い合いにならなかったそうだ。ある日、元夫が酔って激高した際、子どもの前でAさんに暴力をふるい、「このままでは子どもを守れない、殺されるかもしれない」と、子どもを連れて家を出たという。いわゆる「子連れ別居」というものだ。 今の日本のDV施策では、まず被害者は逃げる、それしかないのである。 実際、逃げ出したり、別居することで、子どもたちは両親の葛藤から解放され、平穏で安全な生活を取り戻せたという。 しかし、一般的にDV加害者は、「支配欲が強く、配偶者や子どもを所有物だと思っていて、手放すことはしたくない」ため、離婚が困難なケースが多いそうだ。 このAさんのケースでは、離婚後も苦しみが続いた。養育費が支払われないので調停の申し立てをしたが、調停委員が「暴力をふるうような人に見えない」など夫側を擁護するような言葉を発し、面会交流を強要されたという。しかも、子どもが「もう面会行きたくない」と泣いているのに、聞き入れてもらえなかったと語る。 共同親権が導入されると、DV被害者が子どもと一緒に逃げた場合、「連れ去りだ」と加害者から訴えられることが今より多くなることが予想され、被害者が「子連れ避難」を被害者が躊躇してしまうのではないか、と指摘する。 改正案が施行されたら、既に離婚が成立した父母でも、共同親権を求めて申し立てをすることが可能になるという。 つまり、「逃げることもできない、離婚後も再び危険にさらされる」不安が出てきている。