森雪之丞を48年の作詞活動へ導いた「布袋寅泰とのセッション」
1970年代から50年近くにわたり、音楽業界の第一線で活躍してきた作詞家の森雪之丞氏。ロックからアニソン、ミュージカルまで、ジャンルを問わない柔軟性も魅力の一つだ。だが森氏によれば、どんな詞を書くときも変わらない「軸」や「価値観」が確かにあるという。森氏の活動の原動力も含め、詳しいお話をうかがった。 (取材・構成:山岸裕一) ※本稿は、『THE21』2024年5月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「まずやってみる」精神でヤケドしつつ成長してきた
昔から、何かに対して「すごい」「かっこいい」と感じたら、多くの人が最初に考えるだろう「やれるか、やれないか」をすっ飛ばして「やってみよう」と考えるタイプでした。それは年を重ねた今も変わりません。 そんな性格なので、これまで失敗も山ほどしています。デヴィッド・ボウイやプリンスに憧れて、特段歌がうまいわけでもないのにバンドを結成し、そこでボーカルをやっていたのもその一つ。だけど、その経験のおかげで「歌う側の気持ち」が少しわかるようになりました。 他にも「失敗だと思っていたけど、いざ振り返ってみると自分の人生にプラスになっているな」と思えることが、数え切れないほどあるんです。 近年取り組んでいるミュージカルも、そういう行動原理を持っていたからこそ出会えたジャンルだと思っています。最初はどんな詞が求められるか、まったくわからなかった。でも、トライして初めて学べることが多いことを知っていたから「まずやってみよう」と挑戦することができたんです。 その他、今や当たり前になった「VOCALOID」にも、10年以上前から触れています。きっかけは、2013年に発表されたボカロ「ZOLA PRO JECT」で公式デモソングの作詞を手がけたこと。特に最近登場した「シンセサイザーV」という、従来以上に人間らしい音声を出力できる技術には驚かされました。こういうスゴい技術に出合うと、やはり今でもワクワクします。 とにかく「通用するか」じゃなくて「楽しいから」やってみるんですよ。するといつの間にか、僕に仕事を頼んでくれる方や、支えてくれる方への理解が積み上がっていく。ずっとその連続だったと思います。 僕の場合、誰か特定の師匠がいるわけでもないですし、この「いいな、すごいな、かっこいいな」と思ったものに自ら飛び込むことの繰り返しで、成長してきたんですね。たまにヤケドもしながら......ちょうど、電灯に飛び込んでいく蛾みたいなイメージだと思います(笑)。 今年で70歳になりましたが、今もその生き方は変わっていません。身体のことも考えつつ、次は新しくどんなことをしようかとずっと考えています。なので、明確な目標は決まっていないのですが......少なくとも「おじいちゃん」にはなりたくない。 この定義は難しいですが、新たな出会いに対して「面倒だ」と思うようになってしまったら、おじいちゃんかな。だって、新しい楽しみは、いつも新しい人との出会いから始まるものですから。