「世界記憶遺産」をめぐる日中韓の攻防 民間では連携も
昨年の富士山に続き、今年は富岡製糸場が世界文化遺産に正式に登録されるなど、「世界遺産」で沸く昨今。この夏注目を集めた、ユネスコによるもうひとつの「遺産事業」が世界記憶遺産だ。来年度の登録に向けた国内候補が「東寺百合文書(京都の東寺に伝わる約2万5000通の古文書群)」と京都府舞鶴市推薦の「シベリア抑留者引き揚げ(終戦後、シベリアに抑留された人々の日記など570点)」に決まったことは記憶に新しい。 貴重性や記録性とともに「デジタル化」の実績を高く評価されたのが東寺百合文書だ。 登録の可否を審査するユネスコ記憶遺産国際諮問委員会(IAC)も「デジタル化によって、各遺産に世界中からアクセスできるようにすること」を行動目標に掲げ、登録各国に推奨している。京都府立総合資料館が昨年1月にデジタル化に着手。凸版印刷の協力を得て、天皇の綸旨(口宣をもとに側近などが発行する奉書)や武将の書状、荘園や寺院の絵図などを高精度デジタル化し、今年3月から『東寺百合文書WEB』として公開している。 8世紀から18世紀といえば、奈良時代末期から平安、鎌倉時代を経て江戸中期に至る日本史の名場面が目白押し。同WEBでは後白河院の下文、源頼朝の教書、足利尊氏や義満の書状、後醍醐天皇の綸旨、織田信長と徳川家康の朱印状などなど歴史マニアにはたまらない史料の数々を目の当たりにできる。 画面を拡大すれば筆跡の揺れや墨の濃淡、さらに紙の折り目や地の模様(それこそ紙魚さえも)まで見える臨場感。「古文書なんて難しそう」という人には、子ども向けの解説「Kid’sひゃくごう」がおすすめだ。某僧のスキャンダルを暴く落書などを例に、読み解き方のはじめの一歩がわかる。
今回の候補からは漏れたが、南九州市が推薦した「知覧特攻隊の遺書」に対する中国・韓国の猛反発は、昨今の北東アジアの外交構図そのものだった。ユネスコ国内委員会は「日本からの視点のみが説明されている。多様な視点から共感できる提示の仕方が必要」と指摘して推薦を見送ったが、その結果には国内でも賛否両論が巻き起こった。南九州市は2年後の選考へ向けて再挑戦の意向を表明している。