JR東海のドクターイエロー、ついに引退 メリット多い「営業車検測」へ
営業費の1割減を目指す業務改革の一環
ドクターイエローの引退と営業車検測の開始には別の狙いもある。それは、固定費の削減だ。鉄道業界は営業費に占める固定費の割合が比較的大きいことで知られる。例えばなんらかの事情で、運行する列車の本数を一時的に100本から10本に減らすことになっても、100本の運行が可能な分の乗務員を確保しておく必要があり、車両や設備の保守も大幅に減ることはない。 典型的だったのが新型コロナウイルス禍による減便だった。急激な利用客の減少が鉄道業界の痛手になった。JR東海では、緊急事態宣言下の20年4月には東海道新幹線と在来線特急列車の輸送量が前年度から約9割減少し、20~21年度に2期連続で赤字を計上した。22年度以降、利用率や収入は回復しているが、コロナ禍前の水準には戻っていない。 背景には、オンライン会議の普及などによる就業・生活パターンの変化がある。それに対応してJR東海が打ち出した戦略が、「収益の拡大」と「業務改革」の2つの柱からなる「経営体力の再強化」だ。すなわち、収入を増やし、固定費を減らすことで収益を安定的に確保することを狙う。 「収益の拡大」の取り組みの一つがインバウンド(訪日外国人)需要の取り込みだ。23年10月、JRグループはJR全社で販売している訪日外国人向け全国乗り放題の「ジャパン・レール・パス」を約50~80%値上げした。さらに、追加料金を支払えば、これまで対象外だった東海道新幹線「のぞみ」などの速達列車も利用可能にした。 従来、安いジャパン・レール・パスを使って本来乗れないはずの「のぞみ」に乗車しているインバウンドが多かった。これにより、正規料金を払っている国内の利用者に十分な座席数を提供できない事態が発生していた。 しかし、20年3月に実現した新ダイヤで、のぞみの増発を図り「1時間に最大12本」が実現したしたことで、インバウンド需要の積極的な取り込みが可能になった。パスの値上げやのぞみへの誘導により、24年度第1四半期にはインバウンド収入が約270億円(18年度同期比約2.2倍)に達し、四半期としては過去最高を記録した。 2本目の柱となる「業務改革」により、JR東海は10~15年かけて固定費を単体で800億円削減する計画だ。営業費の約1割に相当する。ドクターイエローの引退もこの一環だ。また、営業車検測によって頻度を高めることで、係員が線路上で実施している検査業務の一部も代替できるようになり、人員削減によるコスト削減も見込む。 このほかにも、28年ごろの導入を見込む東海道新幹線の自動運転システムや、29年ごろの導入を見込む画像認識による車両外観検査装置などでも、人員削減が進むと見ている。在来線・新幹線の現業部門における要員数は、業務改革前の約1万1000人から約8500人まで削減される計画だ。 コロナ禍の利用客減少や、将来的な労働力人口の減少を見据えて改革を進めるJR東海。ドクターイエローの引退は、同社の技術開発の成果だけでなく、経営改革の進展も象徴している。
岡山 幸誠