遺体は裸でテカテカ、女性遺族は立ち入り禁止、なぜか水牛のお乳が…インド・ガンジス川の野外火葬場で見た驚きのしきたり
火葬場になぜか犬と水牛
私はもう慣れてきた。「おいくらで?」と聞く。 「3000ルピーでいい」とPさん。3000ルピーは、その日のレートでは日本円にして約5000円だ。値切ったら2000ルピー(約3300円)となり、「じゃあ、お願いします」。Pさんにくっついていく。 いわく「シヴァの神のところ」は野外火葬場の背後に聳える建屋の一隅。白い長い髭を蓄えた、相当高齢な男性が、藁の倉庫のようなところにいて、火を燻らせていた。「これを皆が取りに来て、点火に使うわけさ」。得意げな声だった。 「高級のところ」は、野外火葬場の背後の高台に立つ、建屋の中にあった。とはいえ、窓なしのオープンエア、相部屋のような感じだ。遺体を置くのは、薪で組んだ台ではなく、コンクリートで組んだ台で12台。足元には灰が溜まり、「白い床」となっていた。 私が行ったとき、たまたま「高級のところ」では1件の火葬も行われておらず、犬と水牛がのんびりといて、犬が水牛のお乳を飲んでいた。 ――なんでここに水牛がいるの? 「火葬中に水牛のお乳をふりかけると、火の勢いが良くなるから」 ――昔から? 「そう、たぶん大昔から。あと、この『高級のところ』では火葬中に白檀の粉もかける。匂いがきれいになるし、火の勢いも強くなるからね」
なぜ女性遺族は立ち入り禁止なのか
英語のハンディキャップがあり、聞き違いもあるかもしれないが、私がPさんから聞き取ったと思えることを列挙する。 〇バナーラスのホスピス(末期癌に限らず、「死が近い」と悟った老人たちの施設)に来て、死ねる日を待っているお年寄りが大勢いる。 〇ガンジス川は今も昔も「天国」そのものだから、死者がインド全土から列車や車で運ばれてくる。 〇遺体には燃焼効果を高めるために蝋を塗る(前夜見たご遺体がテカテカしていたのは、そのためだった)。 〇遺体の一部をまずガンジス川の水につけ(天国に「ご挨拶」=清めの儀式)てから、焼く。3時間焼いて、頭蓋骨と腰の骨が残り、あとは灰になる。 〇頭蓋骨と腰の骨と、あと全ての灰をガンジス川に流す。 〇ここでの火葬が理想だが、他の町でエレクトリックによって焼き、灰だけを持って来て、ここからガンジス川に流すケースも増えてきている。 〇ここで焼くのと、エレクトリックで焼くのとの違いは、生まれ変わり。前者はミツバチやアリ、蝶々、樹木など人間以外のものに生まれ変われるが、後者はまた人間にならなければならない(Sさんの私見かもしれない)。 〇「お墓」の概念はない。 〇火葬場内へは、女性遺族の立ち入り禁止。昔、夫の火葬のとき、「私も死ぬ」と取り乱して火に飛び込む妻があとを絶たなかったから(前夜階段のところにかたまっておられた女性たちは、やはり遺族だったのだろう)。 なお、火葬場内の女性遺族立ち入り禁止に関して、Pさんの言う「昔」は、おそらく19世紀のこと。近代まで、インドには寡婦が夫に殉死するという、まさか女性が好き好んでするとは思えないサティーの風習があり、美徳と考えられていたが、「サティー禁止法」(1829年)の制定以降、姿を消した。しかし、1987年に1件が発生したことを受け、1988年、新たに「サティー防止法」が制定されたと、後に前田くんがインド発のWEBサイトで調べてくれて、分かった。