物価上昇に見合う賃上げが実現!? 「実質賃金」と「最低賃金」の推移を見てみよう
岸田首相による「物価上昇に見合う賃上げの実現」との表明を皮切りに、その必要性が強く叫ばれています。一方で、その進捗はいまだ道半ばであるとする見方もあります。実際、大企業を中心として賃上げが実現していることとは裏腹に、一般市民(生活者)の家計との乖離はまだまだ大きいと感じる方も多いと思います。 この記事では、私たちに身近な賃金を考える場合に影響を及ぼす指標である「実質賃金」と「最低賃金」について、その概要やこれまでの推移などを確認してみたいと思います。
実質賃金の推移
「実質賃金」とは、給与所得者等の所得税、社会保険料等を差し引く前の「現金給与総額(退職金は含まない)」と物価変動(消費者物価指数)との関係を示す指標です。この実質賃金は、現金給与総額(指数)を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で除して算出され、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」として公表しています。 図表1は、実質賃金、現金給与総額、消費者物価指数の過去の推移を表したものです(消費者物価指数は、総務省が公表している消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比を示しています)。
※令和5年6月は速報値のため、令和5年5月(確報値)を掲載 毎月勤労統計調査 令和5年6月分結果速報より筆者作成 現金給与総額については、おおむね上昇傾向にあり、令和4年度以降に特に顕著に上昇している結果となっています。その一方で、消費者物価指数も上昇傾向にあり、同じく令和4年度以降にその上昇が顕著となっています。さらにこの指数は、現金給与総額の上昇率を上回る数値となっています。そのため、結果的に実質賃金は減少傾向となっています。 昨今の「物価高に見合う賃金の上昇」を望む声が上がる背景の1つには、このような物価と賃金の上昇幅にギャップが発生していることが挙げられます。
最低賃金の推移
「最低賃金」とは、最低賃金法に基づき定められる、賃金の最低限度のことです。雇用主は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず、それに違反する場合には罰則も設けられています。 令和5年度には、2023年10月より最低賃金の改定が実施されています。実際の発効年月日は都道府県別に異なりますが、図表2に記載のとおりです。 【図表2】都道府県別最低賃金の改定状況