土湯が日本の地熱発電に果たす役割

日本は依然として、電力の7割以上を石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料による火力発電で賄っている。土湯温泉の地熱発電所は、火力発電所や原発に比べるとはるかに小規模な発電施設だ。 福島第一原発は、かつて数百万世帯の家庭や企業に電力を供給していたが、土湯温泉の地熱発電所の発電量はわずか400キロワットだ。元気アップつちゆによれば、それでも約800世帯分の電力を賄い、発電所近くのエビ養殖場に温水を供給するのに充分な発電量だという。 168ヵ国が加盟する政府間組織「国際再生可能エネルギー機関（IRENA）」で地熱エネルギーの分析をするコルブルン・ラグナ・ラグナルスドッティルは、土湯温泉に建てられた小規模な発電所によって日本のエネルギー事情が変わるとは考えにくいと話す。それでも土湯温泉の取り組みは、地熱発電に対する理解を促進することで、将来、より大規模な地熱発電所を建設する素地を日本に作る可能性があると指摘する。 「土湯温泉の事業は、地熱発電所を建設しても美しい自然環境は破壊されないと、日本の地域社会に理解してもらうことを助けるでしょう」と彼女は言う。 火山列島の日本には、高温のマグマの放射熱で熱せられた場所が地下に何千ヵ所もある。こうした場所に地下水が流入すると、それが高温の水蒸気となって地表に噴出する。これは、温泉の湧出と地熱エネルギー利用の双方によい環境だと言える。日本政府は国内に約23ギガワットの地熱発電量に相当する水蒸気が地下にあると推定するが、こうした場所のほとんどは温泉地の近くにある。 土湯温泉には、湯治場と地熱発電所が共存する最適な条件がそろっている。ほとんどの温泉地では、各旅館や浴場がそれぞれ井戸を掘削して温泉水を確保しているが、土湯温泉には中央源泉があり、ほぼすべての旅館や浴場がそこから温泉を引いている。地表に噴出する約150℃の高温の蒸気と熱水に、冷たい山の湧き水を注入して最適な湯温にしているのだ。 土湯温泉では、すでにあった温泉水くみ上げ用の井戸の上に地熱発電所を建設しており、新規に井戸を掘削していない。既存の井戸から噴出する水蒸気を利用してタービンを回し、発電した後、山の湧き水で適温にした温泉が浴場に送られる。 住民によれば、発電所の稼働後も温泉の湯温や品質に変化はない。旅館「ニュー扇屋」では、フロント係のエンドウ・シズエが温泉卵を作っている。温泉卵は、籠に入れた卵を直接、温泉に沈めて、白身がカスタード状の特徴的な質感になるまでゆっくりボイルする温泉料理だ。 「温泉水の品質への影響はまったくありません。ですから地熱発電所に関してはあまり心配していません」とエンドウは言う。