【映画作家・想田和弘に聞く】NYから牛窓に移住した理由と新作「五香宮の猫」のこと…「猫は社会の状態示す」
他者とかかわりながら暮らす。その可能性も、この映画は見せる。都会は無関心、小さな町は過干渉が問題になったりすることもあるが、実際、移り住んでみて、どうですか――。
「光が当たれば影が生じるように、セットなんですよね。牛窓で暮らすことと、匿名性の喪失みたいなことは。もうどこへ行ってもみんな私たちの行動をお見通し、みたいな」
でも、それは「安心感ともセット」だという。「やっぱり気にかけてくれるわけなので。無関心じゃない。家族もそうで、心配してくれるのがうざかったりもするわけですけど、それはありがたいことでもある。ただ、その関係をよく保つためにはそれなりの努力が必要。それはトレードオフというかね、何を選ぶかですよね」
想田自身は、そこにすごく魅力を感じているという。「ずっとそういうのから逃げていたはずなんですけど、自治会に入っちゃったりしてね。なんかもう自分じゃないみたいですよね」。屈託なく笑う。
分け隔てなく
自治会以外にも、語り合う場がこの映画には出てくる。「てんころ庵」というサロンだ。「てんころ庵は、近所の80代、90代の女性たちが中心になって運営している民間のサロン。週に1度、みんなでとっている生協の配達がある日に、一緒に体操したり、ごはんを作って食べたり、集まってワイワイガヤガヤする。ほとんどの人は、旦那さんはもうなくなっていてお一人暮らしなんですけど、ご近所さん同士すごく仲がいいから楽しそうです。非常に開かれていて、外の人も遊びに来る」
地方の町の多くがそうであるように、牛窓も超高齢化の問題に直面しているという。ただ、この映画はそのことをことさら悲観的に見せたりはしない。高齢者についても、子供についても、動植物についても、それぞれのありようをあるがままにとらえていく。生きとし生けるもの、その命を分け隔てなく慈しむように。
ただし、決して大上段には構えないのが、想田映画のいいところ。年齢も性別も種も関係なく、みんな同じ生きものなのだと思わせる要素は思わぬ形であらわれる。それはたとえば、集音マイクのふわふわしたカバーに対するリアクション。「老いも若きも猫も好きなんですよね、ふわふわが」
※「五香宮の猫」は、10月19日から東京・シアター・イメージフォーラムなど、10月25日から岡山・シネマ・クレールほか全国順次公開。想田和弘によるフォトエッセー集「猫様」(発行:ホーム社/発売:集英社)も刊行された