浅野拓磨の“折れない心”。「1試合でひっくり返る世界」「自分が海外でやれること、やれないこともはっきりした」<RS of the Year 2023>
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、ラグビーワールドカップ、サッカー・FIFA女子ワールドカップ、世界陸上、バスケットボール・FIBAワールドカップ……数々の世界大会が開催され、多くのアスリートの活躍に心揺さぶられる1年となった2023年。一方で、小野伸二さん、石川佳純さん、岩渕真奈さんなど、長く第一線で競技を背負ってきたレジェンド選手たちが現役引退を決意したことも印象的な一年となった。そこで、結果や勝敗だけではないスポーツの本質的な価値や魅力を伝えてきた『REAL SPORTS』において、2023年特に反響の多かった記事を振り返っていきたい。今回は、欧州サッカーの舞台で確かな成長を続ける浅野拓磨選手の“成長の過程”に迫った記事だ。 (2023年7月25日公開) =================================
ブンデスリーガ1部・ボーフムに所属する浅野拓磨。2021-22シーズンの加入初年度は27試合出場で3得点、2年目は25試合出場で3得点。FWとしては得点数の面で物足りなさも感じるが、それでも浅野が主力として起用され続ける理由はどこにあるのだろうか。ヨーロッパの地で7シーズンにわたってプレーしている日本代表FWは決して順調なキャリアを歩んできたわけではない。一時はドイツ4部リーグのセカンドチームで戦う時期も経験した浅野は、どのような思いを胸に、常に矢印を自分に向けて進化し続けられたのか。その成長の過程を振り返る。 (文=中野吉之伴、写真=picture alliance/アフロ)
技術ミスでボールを失うシーンもある。それでも…
日本国内において浅野拓磨は一番過小評価されている選手かもしれない。 2022年FIFAワールドカップ・カタール大会でドイツ相手に起死回生のゴールを決め、2022-23シーズン最終節で強豪レバークーゼン相手に所属クラブのボーフムを残留に導く大活躍を見せても、一定数以上の“アンチ”が存在する。 確かに誰もが驚くような鮮やかなプレーをする選手ではないかもしれない。相手守備を無力化するクリエイティブなプレーが得意なわけでもない。技術ミスでボールを失うシーンもそれなりにある。苦手なこと、課題としていることを挙げていったら、もっと他に良い選手がいるという主張をする人だっているのだろう。 浅野は2016年にヨーロッパに渡ってからすでに7シーズン。順風満帆な海外生活だったわけではない。むしろ苦労の連続といってもいいかもしれない。それでも毎シーズン浅野を必要とするクラブがあるという事実は変わらない。2021-22シーズンにブンデスリーガのボーフムへ移籍すると、戦力的に厳しいクラブを2年連続残留へと導いている。どんな時でもチームのために全力でプレーし、「ここぞ!」という場面で誰も予想しないようなゴールやアシストを決める浅野に対する地元ファンの評価は非常に高い。 ボーフムの取材に行くと、記者席に座る僕の耳に何度も「アサーノ!」という大声援が聞こえてくる。浅野が走り出すとスタジアムが沸く。スピードのある選手が常に動き回るというのは相手選手からしたら相当に厄介だ。守備でもまったく足を止めないし、タイミングよく体を寄せてボールを奪取することもできる。“相手が嫌がる選手”というのがチームにとってどれだけ価値があるのかを、ボーフムファンはよく理解している。そのどっしりと落ち着きはらった佇まいからはチームの主力として確かな自信を感じさせる。