全仏で見えた光と影。錦織圭はグランドスラムで勝てないのか?
振り返ってみれば、様々な選手のキャリアとの交錯や、希望と課題が複雑に入り組んだ錦織圭の全仏オープンだった。 初戦では、ケガによる1年半のツアー離脱から復帰してきたばかりの21歳のタナシ・コキナキスと対戦。失うもののない挑戦者の勢いに押される場面も多かったが、最後に調整力を発揮し勝利する。それでも「トップ選手に値しないミスが多かった」と自分を戒め、同時に、自身もケガの苦悩を知るだけに「上に行く可能性のある選手のケガは心が痛む。コキナキスとは親しい訳ではないが、かわいそうという心は芽生えます」と胸の内に同情を抱えた。 2回戦では、手の内を知るジェレミー・シャルディ相手に硬軟自在の圧巻のプレーを披露。第1セット終盤から第3セットにかけて12ゲーム連取し、相手に「圭のプレーが凄まじくて、何をすることもできなかった」と苦笑いさせた。 「アジア人ナンバー1の圭と対戦できるのは光栄」と尊敬の目を向けてくるチョン・ヒョンを、なんとか退けたのが3回戦。2セットを連取するも、試合を諦めず食らいついてくる相手のひたむきさに、3セット目以降追い上げを許した。第3セットを奪い返され、第4セットも0-3と劣勢になったところで、試合を中断させる恵みの雨に助けられる。本人も「あのまま行ってたら100%負けていた」と認めるほどの苦戦だった。 第1セットを0-6で落とすも、「悔いを残してコートを去りたくない」と奮起し、必死の逆転勝利をつかんだのが4回戦。3連戦で肉体の疲労がピークに達する中、心の強さでもぎとった勝利だった。 そうして迎えた、世界1位のアンディ・マレーとの対戦――。 第1セットの錦織は、「これ以上ないようなプレーの内容と結果」と自画自賛するプレーで、世界1位を終始圧倒した。フォアの強打でマレーを左右に振り回し、急がず、しかし機を逃すこともなく、次々にウイナーを決めていく。33分、6-2のスコアで奪った第1セットには、錦織の可能性が詰まっていた。 第2セット以降も、試合を構成する成分が大きく変わった訳ではない。錦織が攻め、マレーが守る。ただ目立ち始めたのが錦織のミスであり、特にタイブレークの末に落とした第3セットが試合の行方を決定づけた。