40周年のアニバーサリー・イヤーに突入!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がいまなお愛されるワケ
スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めた数多くの傑作たちのなかでも、ひときわ世界中を熱狂させ、いまなお“タイムトラベル映画の最高傑作”として愛され続けている「バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTTF)」シリーズ。2025年は、その記念すべき第1作の公開から40年を迎えるアニバーサリーイヤーとなる。そこで本稿では、なぜ本作がこれほどまでに多くの人々を惹きつけたのか、3つの理由から深掘りしていきたい。 【写真を見る】マーティの魅力的なキャラクターに、印象的な音楽、そしてデロリアン!いまの時代の若者も虜にする「BTTF」の魅力とは 物語の舞台は1985年のカリフォルニア。高校生のマーティ(マイケル・J・フォックス)は、歳の離れた友人の科学者ドク(クリストファー・ロイド)が長年の悲願だったタイムマシンを完成させたことを聞き、その実験の手伝いをすることに。しかし思わぬトラブルからドクは襲撃され、マーティは1955年にタイムスリップ。なんとかして1985年に戻ろうとするマーティは、若き日の両親と出会う。ところが若き日の母ロレーン(リー・トンプソン)がマーティに一目惚れをしてしまう。 1985年のアメリカ独立記念日の祝日に合わせて北米公開されたこの第1作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、翌年3月まで超ロングラン興行を展開。およそ1900万ドルの製作費に対し、北米だけでその10倍以上となる興行収入2億ドルを記録し、日本をはじめとした世界各国でも大ヒット。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(89)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』(90)とシリーズ化されることとなった。 ■カギはやっぱり“タイムトラベル”!名コンビが仕掛ける卓越したジャンルミックス どうしてもスピルバーグの名前を冠して語られがちな「BTTF」シリーズだが、本作を手掛けたのはのちに『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)などを手掛けるロバート・ゼメキス監督。スピルバーグにその才能を見出されて映画界入りした彼は、ボブ・ゲイルとのタッグで脚本も担当。スピルバーグ製作総指揮、ゼメキス監督、ゼメキスとゲイルが脚本のチームでは、これが3本目の作品となった。 とはいえ前2本の作品が興行的に失敗したこともあり、「BTTF」も初期構想から数年間、映画化にたどり着けなかったことは有名な話だ。しかも1980年代前半には、同じような“タイムトラベル”を題材としたSF映画がことごとく不評に終わっており、ゼメキスとゲイルには従来のタイムトラベル映画にない斬新な語り口が必要になった。そこでたどり着いたのは、1955年と1985年の文化的な対比と、タイムパラドックスを阻止するための奮闘によって生みだされるユーモアだ。 元々はゲイルが父親の高校時代の卒業アルバムを見て、もし自分が同級生だったら父親と友だちになっていただろうかと考えたことから着想した本作。1955年は、第二次世界大戦終結から10年が経ち、アメリカ社会が安定していた典型的な“古き良き時代”。同時にロックンロールなど1980年代まで続く多くのポップカルチャーが生まれた時代でもある。それでも過去に固執せずに現代に戻ることにこだわり続けるマーティの姿。それは1980年代に流行した青春映画特有の“いまを生きる”ティーンエイジャーの理想像そのもの。 オールディーズな1950年代カルチャーと現代とのリンクを器用巧みに交差させる青春描写に、歳の超えた友情や家族の物語。SF映画としての軸足をぶれさせずに、それらを語ることで、他にはない突き抜けた娯楽作へと昇華させたことが大成功の要因だろう。しかも時代を重ねるごとに、1980年代も“古き良き時代”のひとつへと変化していったこともまた、本作の娯楽性を高める後押しとなっている。 ■共感せずにはいられない、マイケル・J・フォックス=マーティのキャラクター 先述のように1980年代当時の若者にストレートに刺さるものだったマーティのキャラクター性は、観客が思わず共感したくなるような親しみやすさを備えながらも、理想が詰め込まれたある種の“ヒーロー”に近い。やがてそれは、きわめて普遍的な若者の理想像のひとつとしてどの時代にも通底するものとなっていく。 根は真面目だけどちょっと短気で人間くさく、流行やカルチャーにもしっかりとアンテナを張り、完璧ではないがある程度のことはそつなくこなすことができる。恋愛もするし、歳の離れた親友もいるなど人付き合いは上手なほうで、あらゆる可能性を秘めている。ビジュアル的にも中庸な、どこにでもいそうな感じで、トレードマークである“救命胴衣のようなダウンベスト”が彼のイメージを決定づける。これを着れば一目でマーティに影響されていると判別してもらえるのは大きい。 マーティ役のマイケル・J・フォックスは、当時すでに20代半ば。トム・ハンクスやリバー・フェニックスも出演したシットコム「ファミリータイズ」でメインキャストを務めて人気を集めていたとはいえ、決して誰もが知る有名スターではなかった。それが本作をきっかけに世界的スターへとのぼり詰める。当初はほかのキャストが演じる予定だったマーティ。フォックスでなければここまで愛されることはなかっただろう。 また本作を語る上で欠かせないのは、のちに「アベンジャーズ」シリーズの作曲も手掛けるアラン・シルヴェストリによる壮大なオーケストラサウンドのテーマ曲や、アカデミー賞歌曲賞にもノミネートされたヒューイ・ルイスの主題歌「パワー・オブ・ラブ」といった印象的な音楽の数々。これらの音楽がいまでも様々な場所で使われ続けていることが、「BTTF」を決して過去の作品にさせない重要な一助となっている。 ■当初の予定は冷蔵庫!?シリーズを象徴するアイテムといえばやはりコレ そしてなんといっても、「BTTF」シリーズを象徴するデロリアンだ。元々タイムマシンは固定式で、冷蔵庫を使う予定だったが、機動性や予算面の課題、また映画を観て子どもたちが真似して冷蔵庫に入ってしまうことが危惧され却下に。そうして未来的なガルウィングドアが特徴的なDMC・デロリアンが採用された。 結果的に自走式のタイムマシンとなったことで、映画に躍動感が生まれたことはいうまでもない。かつシリーズを重ねるごとにカスタムされていく姿はカーマニアの心をくすぐり、奇しくもDMCが第1作の公開よりも前に倒産したことでデロリアン自体の希少性も高まるなど、思わず波及効果を生むこととなった。 ちなみに『PART2』では空を飛ぶ機能を備えていたデロリアン。こうした“空飛ぶ車”などの未来のアイテムは、同作の舞台となった2015年を実際に迎えた10年前に大きな話題を集めた。その多くが実用化には至っていないが様々な研究が進められており、一方でスマートフォンのように予想されていなかった“未来”も。ホバーボードも『ジョーズ19』も実現する可能性はゼロではなく、その原点である「BTTF」はこの先の未来でも語り継がれていくことは間違いないだろう。 40周年の幕開けとなる2025年1月8日(水)には、35周年の際にリリースされた4K Ultra HDパッケージの単品商品がシリーズ3作ともに発売。また2025年4月6日(日)からは、2020年にイギリスで初演されたミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が劇団四季のもと日本初演を迎える。これまで以上に盛大なアニバーサリーとなりそうな2025年を、「BTTF」と共に大いに楽しもう! 文/久保田 和馬