徳島県上勝町発「飲んで、楽しむ」資源循環が都市へとスケール
小さな町にとっての悲願
スペック代表 田中達也にとっては悲願だった。「これまで視察に来ていただいた自治体や企業は多くありましたが、『人口が少ない上勝町だからできること』と言われることもあり、忸怩たる思いがありました。上勝町で続けてきた取り組みを、ほかの地域でも実践できることを示せたらと考えていたので、ご依頼いただけたのはとてもうれしかったです」と話す。 2024年5月には常盤橋タワーに併設され、東京駅へと続く広場TOKYO TORCH Parkで、まちの未来を考えるビアガーデン「Future Beer Garden~上勝町×TOKYO TORCH~」を上勝町が主催した。 ごみの排出量抑制をコンセプトに、上勝町の取り組みに共感する出店者が集まり、上勝町産の食材を生かしたメニューや地元農作物の販売に加え、TOWN CRAFTの提供も行われ、大盛況。2日間の開催で訪れたのは、約1万1000人。上勝町の人口の10倍近い来場者が集まったイベントに、上勝町役場企画環境課の菅翠は驚いた。「参加者の方からreRiseTOKYOや上勝町の取り組みについて質問されることが多くあり、ゼロ・ウェイストに向けた活動への関心の高さを感じました」。 プロジェクトの実現に町内外で奔走したスペックのアシスタントディレクター北澤舞は「私たちは『JUST DRINK KAMIKATZ BEER(美味しいビールを飲むだけで環境にちょっと良いコトに繋がっている)』をコンセプトとして掲げています。まさにその言葉の通り、気軽にビールや上勝町の食材を楽しんでいただきながら、多くの人たちにゼロ・ウェイスト活動を体験していただける機会になりました」と振り返る。 廃棄物の分別や回収、資源の再利用はスペックが「誰でも、簡単に、いつでも廃棄物の処理ができる」方法を検討し、三菱地所に提案して実現した。 TOKYO TORCH 事業部副主事・李想は「この仕組みと『Future Beer Garden~上勝町×TOKYO TORCH~』の開催は、上勝町やスペックのみなさんがこれまで取り組んできた実績やノウハウとテナントやビルの運営管理者のごみ分別に対する協力があったからこそ、実現できました。これからは常磐橋タワーだけでなく、丸の内エリアでこのプロジェクトを広げていきたいと考えています」と語る。 田中は「上勝町だけでなく、都市でこの取り組みが実現できたことは、これから全国各地、世界に広げていくきっかけになると思います」と前を向く。小さな町で先駆的に行われてきた取り組みが、都市でまちづくりを行う企業とのコラボレーションによって、社会を変える大きな流れを生み出していく。 北澤舞◎スペック コンサルティング 事業部法人コンサルサービス課アシスタントディレクター。クラフトビール好きが高じて、徳島市に本社を置くスペック代表の田中達也との出会いから、2022年より現職。 李想◎三菱地所 TOKYO TORCH事業部 開発1ユニット 副主事。2020年入社、2024年から現職。TOKYO TORCH街区リサイクル構想のほか、主にオフィスの企画を担当。 菅翠◎上勝町企画環境課 課長補佐。上勝町老人ホーム、産業課、出納室を経て2016年から現職。環境、 SDGs、地域おこし協力隊などの業務を担当。
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