世界で最も謎に包まれたサッカーチーム、北朝鮮代表の実情は?
「デマ」
長い間、世界から孤立している北朝鮮だが、新型コロナのパンデミック中を除いては、国際スポーツ大会には頻繁に参加してきた。 10年のW杯に出場した北朝鮮代表は、同組になった1次リーグでブラジル、ポルトガル、コートジボワールと対戦し全敗。その際、選手やコーチ陣が平壌で処罰を受けたという噂(うわさ)や報道が流れた。 米政府系ラジオ局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」は匿名の情報源を引用し、当時の金正勲(キムジョンフン)監督が強制労働に送られたほか、安氏ともう1人の在日コリアンのFW鄭大世(チョンテセ)氏を除く選手たちは「厳しいイデオロギー的批判」を受けたと報じた。CNNは独自にこの報道を検証できなかった。 こうした報道を、安氏は「デマ」と呼んだ。 北朝鮮に関する情報を得るのは非常に難しいため、試合に負けたら炭鉱に送られたり、6時間説教されたりしたという話が出ているが、自身が知る限り、そのような話はまったくないと安氏は強調。代表チームでプレーした10年間のキャリアを引き合いに出し、北朝鮮に関する噂を否定した。 こうした偽情報に終止符を打つ時が来たと思うと安氏は指摘している。 北朝鮮が10年W杯の出場権を獲得したのは、66年の大会で準々決勝に進出し、ポルトガルに5―3で敗れて以来、2度目だった。 北朝鮮代表が南アフリカ行きの切符を手に入れた時、選手たちは政府から表彰状と平壌のアパートを与えられたと、国営メディアの朝鮮中央通信(KCNA)が伝え、安氏も認めた。これは金政権による忠誠心への報奨として、珍しいがよく知られた慣行だという。 全員が表彰状と平壌のアパートを受け取ったと安氏は述べたが、自分は在日コリアンだから与えられなかったと言い添えた。 朝鮮半島が分断される前、日本の植民地支配の間に日本に移り住んだ、もしくは移住を強いられた朝鮮半島出身者は、その子孫を含め「在日コリアン」と呼ばれている。 彼らは日本国籍を与えられていないが、北朝鮮のパスポートを申請したり、韓国の国籍を取得したりすることができる。ただし、日本に合法的に居住し、帰化することで日本国籍を取得できる。 在日コリアン3世である安氏は、北朝鮮籍であることを誇りに思っている。 安氏は、祖父母は困難でない人生を選ぶこともできたのに、北朝鮮籍を保持したとし、そのため自身のアイデンティティーを簡単には変えたくなかったと述べた。そのうえで、韓国を自身の地理的な故郷だとも思っていると付け加えた。 10年W杯の北朝鮮代表チームにいたもうひとりの在日コリアンの鄭氏は、2―1で敗れたブラジル戦を前に、北朝鮮の国歌斉唱中に涙を流し、世界の注目を集めた鄭大世氏だ。 鄭氏の涙はファンに感動を与え、安氏によれば、多くの在日コリアンが非常に感動したという。 日本で生まれ育った在日コリアンの鄭氏は大きな夢を持ち、それを実現させ、自身は母国の選手たちと並び国歌を斉唱することができたと安氏は語っている。