杉咲花×志尊淳「志尊くんにとても救われていた」撮影現場で感じた“すごさ”とは
本屋大賞に輝いたベストセラー小説『52ヘルツのクジラたち』が映画化。家族に人生を搾取されてきた主人公・三島貴瑚役を杉咲花さん、そして、そんな貴瑚の声なきSOSを聴き、救い出そうとする岡田安吾役を志尊淳さんが演じる。性的マイノリティやヤングケアラー、ネグレクトなどの問題を扱った本作。作品を通じて二人が感じたこと、そして伝えたいこととは――。 【もっと画像を見る】杉咲花×志尊淳が共演! 映画『52ヘルツのクジラたち』のシーンを見る
世界には多くの“声が届かない人”たちが存在している
――“52ヘルツのクジラ”とは他のクジラと声の周波数が違うクジラのことで、どんなに叫んでも誰にも届かない、世界でもっとも孤独な存在とされています。映画『52ヘルツのクジラたち』もまた、誰にも届かない孤独を抱える人々の姿に、胸がぎゅっと締めつけられました。 杉咲 現実にも、苦しんでいる人たちの声が届かず、その姿が可視化されないままでいる、ということが起きていると思うんです。初めて原作を読んだとき、どうか人々が共に生きられる社会であってほしい、というメッセージを感じました。物語で描かれているのは、この世界の誰もが生きていることを祝福されるべきなのだという“祈り”なのではないのかな、と。 志尊 これまでいろんな作品を経て実感しているのは、「知る」というのはすごく大事だということ。知性や知識は、ときに武器にも盾にもなってくれる。これまでは、自分には関係ないし興味がないと思っていた人たちにも、映画を通じて「知る」きっかけになってくれたら、と思っています。虐待を受けている人や、ヤングケアラーとして役割を負わされている人、性的マイノリティの人……この作品で描かれている以外にも、世界には多くの“声が届かない人”たちが存在しているのだということを。それを伝えようとすることにきっと意味はあるはずだとみんなが信じて、この作品をつくっていた気がします。
人間味を大切に演じたかった
――役作りはどのようにされていましたか。 杉咲 貴瑚は母親からネグレクトを受けていて、義理の父の介護を一人で背負っているヤングケアラーでもあります。まずはその環境がどういったものなのか、当事者や有識者の方々にお話を伺ったり資料を読むなど、知識を深めていく時間を大事にしたのですが、演じるうえでは何かプランを持ち込むということはなくて。貴瑚を暗闇から救い出してくれる美晴(小野花梨)や安吾と対峙して、そこから生まれる感情を大事にしたい気持ちが大きかったんです。 志尊 僕が演じたアンさんは、原作でアンパンマンみたいな人と描写されていたように、他者に寄り添って見守ることができる人。客観的に状況を把握する冷静さがありながらも、そばにいる人を包みこむような懐の深さがあると感じていたので、僕自身も、普段からそうふるまえるように意識していました。アンさんと向き合い、一番の理解者になることが、僕にとって最も大事なことだと思ったので、アンさんとして生きるというのはどういうことなのか、撮影期間中は現場以外でもずっと考えていました。 杉咲 役を演じる上で、その人がどういう背景を持って、どんな状況に置かれているのかを理解しておくことはやはり必要だと感じます。貴瑚はまわりから負わされた深い傷を抱えている一方で、自分自身も無意識に誰かを傷つけてしまうことがある。そしてそれは現実世界でも起こりうることなのではないかと感じたんです。それから貴瑚は、ビールが好きで、ウィットに富んだ側面があって、ガサツなところもある。原作にも描かれていた彼女の“人間味”を大切に演じたいと思っていました。 志尊 映画化するとなると、どうしても小説とは同じアプローチができなくて、僕の容姿を含め、原作のイメージと異なってしまっているところは多々あります。でも、原作の中核にあるものをどうすれば映像のなかで成立させられるか、ということは僕もずっと考えていました。言い方が難しいんですが、“声が届かない人たち”にとってこの世界は生きていることが当たり前の場所ではない気がするんです。アンさんも常に心に揺れるものを抱えていて、危ういところはたくさんある。