【超解説】世界経済の急所、紅海を牛耳る「フーシ派」とは何者か?
そのため、長期的な作戦には多くの駆逐艦が必要です。また、例えばトマホークは1発200万ドル(約3億円)と高価なため、すでに米国内では対フーシ派作戦の費用対効果が問題視されています」(北村氏) そして、もうひとつは空爆の有効性の問題。フーシ派のミサイル発射機はほとんどが移動式で、普段は民間人が生活する地域の武器庫に隠されているため、米英軍は多くの場合、発射直前に叩くことしかできていない。 北村氏が続ける。 「通常の国家を相手にした戦争とは違い、フーシ派への攻撃においては発電所、工業地帯、政府中枢機関といった戦略目標が設定できず、単発的なピンポイント攻撃では効果が期待できません。広域を火の海にするような絨毯(じゅうたん)爆撃的な無差別攻撃でもすれば話は別ですが」 ガザ地区の民間人を巻き添えにするイスラエルの爆撃に対する国際世論の非難が高まる中、米英軍にそんなことができるはずもない。前出の菅原氏はこう指摘する。 「バイデン米大統領は『商船へのミサイル攻撃を止めるまで攻撃を続ける』と言ってしまいましたが、今のような作戦ではそれがいつ達成できるか見当もつかない。中途半端な介入をずっと続けるという最悪の状況にハマりつつあるのかもしれません。 逆に、フーシ派の側は米英軍の攻撃にひるむどころか、むしろ戦意を強めています。今の状況では、戦えば戦うほどイスラム世界での評価が高まり、新たな戦闘員のリクルートも容易になっていく。指導者アブドルマリク・フーシはこう言っています。『イスラエルやアメリカと直接戦える。この大きな祝福と名誉を神に感謝したい』」 まるで甲子園初出場校が優勝候補と戦えることを喜んでいるかのような言葉だが、それほどフーシ派の士気は高いということだ。 前出の河合氏は、イランを中心とする諸勢力の連携についてこう語る。 「イスラエル・ハマス戦争を巡るさまざまな動きは、イランが何十年もかけて構築してきた戦略の集大成という見方もできます。まずはペルシャ湾からイラク、シリア、地中海のレバノンへと続く"シーア派ベルト"の完成。 そこに陣取るレバノンのヒズボラ、シリアとイラクに多数存在する民兵組織。イスラエル軍と死闘を演じるハマス、それを南から牽制(けんせい)するフーシ派......。次にどんな手を繰り出してくるのか、まだ予想しきれないところもあります」 なんとも微妙な形で「対イスラム」の戦いに引きずり込まれた米英軍。とはいえ商船への攻撃が続く以上は何も手を打たないわけにもいかず、その"引き際"は思った以上に難しいのかもしれない。 取材・文/小峯隆生 写真/時事通信社